F.メンデルスゾーン.B 序曲「フィンガルの洞窟」

指揮ブルーノ・ワルター
演奏ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
録音1924年
カップリングベルリオーズ 「ローマの謝肉祭」序曲 他
「Recording Pioneers 1898-1924」の一部
発売Grammophon
CD番号459 000-2


このCDを聴いた感想です。


 この演奏は、Grammophonから発売された輸入盤の「Recording Pioneers 1898-1924」に収録されていたもので、そのCDは、文字通り1898年から1924年までの録音黎明期の録音を集めています。
 古い方では、最後のカストラートのモレスキが歌ったグノーのアヴェ・マリアが入っていたりと、ほとんど19世紀の延長のような雰囲気で、今の演奏に聴き慣れた身にとっては、演奏を楽しむというよりほとんど考古学とか歴史学を学んでいるかのような気になってきます。世界遺産の地に行って「昔はこの場所ですごい文明が栄えていたんだなー」という感慨を覚えるのと実はけっこう近いのではないでしょうか。そういう歴史的遺産の中ではこの「フィンガルの洞窟」は比較的新しい方なのですが、それでも1924年。電気録音にはわずかに届かず、まだ機械録音です。
 録音状態は、機械録音ですからもちろん電気録音には遠く及ばないものの、それほど悪いものではありません。
 3パートぐらいは同時に鳴っていても聞き分けられますし、ちゃんと和音も響いています。楽器の音色も弦楽器と金管楽器はちゃんと聞こえますし、木管楽器は、かろうじてフルートに聞こえるかな、とか、クラリネットっぽい音色かな、とか、なんとなくオーボエかなぐらいには聞こえます。さすがに木管はかなり厳しいところですが。さらに、音も割れていませんし、雑音も焚き火レベルではなく、ちょっとくすぶってプスプスいっている程度で、私はそれほど気になりませんでした。
 まあ、機械録音なんですから、正直言って、各パートがそれぞれ別個に聞こえる時点で、十分に合格ラインだと思っています。
 一応、指揮はワルターで、演奏しているのもベルリン・フィルですが、どこまで録音に表現が入りきっているかは怪しいものでしょう。
 響きやバランスなどは、とにかく聞こえさせるためメロディー部分を強調させているでしょうから、最も実体からかけ離れていると思いますが、少なくともそう不自然ではありません。冒頭などは、低音の動きがちょっと強調されすぎているとはいえ、神秘的な雰囲気はかすかに漂ってきますし、中間のクラリネットがソロで演奏するメロディーが出てくる部分などは、柔らかく穏やかな雰囲気がけっこう出ています。後半の速い部分も、響きが抜けているので細いのはしょうがないものの、メロディーなどから力強さは十分に伝わってきます。
 各奏者のレベルは、さすがにベルリン・フィルらしくしっかりしたものです。これは録音にはそれほど影響されませんから、実体とそう違ってはいないでしょう。
 こういう古い時代だと有名なオーケストラでもテクニックやアンサンブルがかなり怪しげな場合も多いのですが、この演奏にはそういった怪しい部分がありません。速い動きでも一つ一つの音がはっきりしていますし、テンポも実はいろいろ動いているのですが、ピタリとついてきています。聞いていて非常に安心感がありました。
 テンポについては、ワルターの担当になるはずですが、こちらはけっこう変わっています。
 とにかく速いところと遅いところが極端に分かれているのです。
 とくに、速い方はやたらと速く、もしかしたら録音時間の制約で無理やりテンポを速くしたのかと思えるほどです。
 ただ全体の演奏時間は9分32秒ですから、わたしの持っている他の指揮者の演奏と較べても極端に短いというほどでもなく、必ずしも録音時間によるものとは限らないのではとも思えます。もっとも、遅い部分が遅いため、その時間に収めるため速い部分を限界まで速くしたのかもしれませんが。
 さらに、速い部分が速く、遅い部分が遅いのはまだしも、不自然だったのが、その中間が無く、ほとんど両極端だったところです。
 スイッチのオン・オフのように、急に切り替わり、段階がありません。なんだか唐突で、スリリングなところが面白いことは面白いのですが、どうも落ち着きが無いように聞こえます。
 ワルターの機械録音時代の貴重な記録で、録音状態もそう悪くないのですが、やはり好事家向けで、一般に薦められるようなものでは無いでしょう。(2007/11/24)


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