F.メンデルスゾーン.B オラトリオ「エリア」

指揮ヴォルフガング・サヴァリッシュ
独唱バスI(エリア):テオ・アダム
ソプラノI(寡婦、天使):エリー・アメリング
ソプラノII(若者、天使):レナーテ・クラーマー
コントラルトI(天使):アンネリーズ・ブルマイスター
コントラルトII(女王、天使):ギゼラ・シュレーター
テナーI(オバディア):ペーター・シュライアー
テナーII(エイハブ):ハンス=ヨアヒム・ロッチュ
バスII:ヘルマン=クリスティアン・ポルスター
演奏ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団
ライプツィヒ放送合唱団
録音1968年
発売PHILIPS
CD番号420 106-2


このCDを聴いた感想です。


 変わったことを何もしていない、いたって普遍的な演奏です。
 しかし、だからといって決して可も不可もないといった全ての項目が平均点付近の演奏ではありません。
 例えば、他の特徴のある演奏というのは、90点もあるけど10点もある、それを平均すると50点ぐらいになり、90点の部分が光っているという演奏で、可も不可もない演奏というのは、全ての項目が50点ぐらいで、平均しても50点という、欠点も無いけど、特に目立つ点もない演奏といえるでしょう。
 サヴァリッシュの演奏は、90点から10点までといったバラつきはありません。ほぼ全ての項目の点数はだいたい同じくらいの点数です。しかし、その平均が85点ぐらい。つまりほとんどの項目がそれぐらい高い水準を保っているのです。
 サヴァリッシュは、N響の定期公演1000回記念演奏会(1986年)や、2001年の創立75周年記念演奏会にも、わざわざ「エリア」を取り上げるぐらいですから、サヴァリッシュ本人にとっても「エリア」は、特別に愛着のある曲のようで、この演奏はそれより前の1968年の録音ですが、既に曲の隅々まで知りつくして、どの瞬間にも、ここはこういう演奏がふさわしいという自信が感じられます。
 これは聴く人によって個人差があるかもしれませんが、わたしにとって、こうあって欲しいと思うテンポやバランスが、まるでオーダーメイドのようにピタリとはまっています。
 欠点があるとすれば、編成が大きいので軽快さと鋭さに少し欠ける点と、ドイツのオーケストラなので、金属的な輝きと硬さがあまり無いといった事ぐらいですが、鋭さに欠けるといっても、小編成のオーケストラに比べての話で、大編成の演奏の中では十分に鋭さがある方ですし、たしかに軽快では無いのですが、逆に重みがありますし、スピードは十分ですから重くても鈍重ではありません。また、後者の輝きと硬さについても、エッジは立っていなくても、木のような暖かい響きの方を良しとする人にとっては、むしろ長所でしょう。
 逆に、気に入った点を挙げると、いくらでも出てきますが、まずソロでは、エリア役のテオ・アダムですね。
 単に、堂々としていたり声に伸びがあるだけでなく、登場人物の中の一人として、強く感情が込められていて、よく登場する、神へ呼びかける場面など、神を信じて、その力を他の民衆や支配者にも見せて欲しいという想いが、ありありと表れています。
 また、ソロ以外の合唱についてでは、フォルテの力強さも捨てがたいのですが、それ以上にピアノの柔らかさが印象に残りました。
 そもそもエリアの中でp(ピアノ)の合唱曲は、曲自体が明るく安らかで、心洗われるものが多く、サヴァリッシュは、その魅力を余すところ無く表現しています。
 正直なところ、人数が多いためか、緊張感の高い、触れたら壊れそうな透明な響きというわけではありませんが、この演奏の響きは、柔らかさと全てを包み込む暖かい安らかな雰囲気があり、透明な響き以上に魅力があります。
 透明な響きが器楽的な美しさなのに対して、サヴァリッシュの方は、歌詞の内容とつながっていて、例えば第1部の寡婦の死んだ息子が生き返ってくる直後の合唱では、息子が生き返った嬉しさと神を称える気持ちをそのまま表したような純粋な喜びが感じられます。
 そして、最後に特筆しておきたいのが、第38曲のエリアが昇天するシーンです。
 以前、ラファエル・フリューベック・デ・ブルゴスの演奏の時に詳しく書きましたが、この曲には、わたしにとって聴き所が二箇所あり、一つが前半のオルガンが登場する場面。もう一つが後半のトランペットのファンファーレです。
 一つ目のオルガンについては、デ・ブルゴスの演奏で書いたとおり、サヴァリッシュの演奏では全く聞こえないのですが、二つ目のトランペットのファンファーレについては、今回改めて聴き直して、実は理想に近い演奏だということに気がつきました。
 後半が始まったばかりのピアノの部分では、しっかりと存在をアピールしていながら、ちゃんと目立ちすぎないように控えめですし、転調した後のフォルティッシモの部分では、 3連符のリズムを低い音域で十分鳴らしておいて、伸ばしの音でオクターブ上に跳ね上がり、音楽を一気に高揚させています。
 これは、わたしの思い描く理想にほぼ近い展開です。
 ただ、わずかに不満があるのはその音色です。
 これは、完全にわたしの好みのせいなのですが、このトランペットだけは、ファンファーレらしく、アメリカ系のギラギラした輝いた音色で吹いて欲しいのです。
 しかし、この演奏は、当たり前といえば当たり前ですが、ドイツ系の少しくすんだ落ち着いた音色です。
 そこが残念といえば残念なのですが、この部分だけトランペットを変えるのは変ですし、アメリカ系のオーケストラによる演奏では、他の曲のイメージまで変わってしまうため、そういうものを求める方がそもそも無茶というものです。(2002/6/14)


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