F.メンデルスゾーン.B オラトリオ「エリア」

指揮クルト・マズア
独唱バス:アラステア・マイルズ
ソプラノ:ヘレン・ドナース
アルト:ヤルド・ファン・ネス
テナー:ドナルド・ジョージ
ソプラノ:カースティン・クライン 他
演奏イスラエル・フィルハーモニー管弦楽団
ドイツ中央放送合唱団(ライプツィヒ)
録音1992年1月7〜11日
発売TELDEC
CD番号9031-73131-2


このCDを聴いた感想です。


「エリア」という曲は、旧約聖書において語られている預言者「エリア」のエピソードのいくつかをオラトリオにしたものです。
 全曲の構成は、大きくは第1部と第2部の二つに分かれていて、その中には数曲で一まとまりのエピソードがいくつかあり、それらのエピソードが時間軸に沿って八つ並んでいて、最終的にはエリアの死に至ります。
 おおざっぱなストーリーは、『旱魃に苦しんでいるイスラエルにエリアが来て、バール神信仰をやめて本来の『主なる神』を信仰するよう説く。バール神の教徒達との争いに勝ったエリアが主なる神に祈ると、雨が降ってきて地が潤う。しかし、エリアの存在に恐怖したイスラエル王が民衆にエリア殺害を煽動。民衆はエリアを襲撃するが、エリアはなんとか逃れる。そしてエリアの昇天』というふうに進んでいきます。
 まあ、ストーリー的には他の宗教的なオラトリオや受難曲と較べても、それほど変わったところがあるわけではありません。
 しかし、音楽的にはいろいろと特徴が見受けられます。

 まず気がつくのが合唱曲の多さです。
 さらに、ソリストたちの重奏もたくさん出てきます。
 その一方で、ソリスト一人によるアリアはかなり少ない方だと思います。
 おそらく、曲の重点は合唱曲の方におかれているのではないでしょうか。
 特に、重奏の方はソリストが一パート二人づつと、全部で8人もいますので、いろいろなパターンを楽しめます。
 しかも、この重奏と合唱の組み合わせという構成も多くあり、重奏の精妙さと合唱の迫力との対比という楽しみ方も出来ます。

 ところで、全曲の中で、わたしがもっとも印象に残ったのは、第1部のバール神の教徒達とエリアとの争いの中の、バール神教徒達の合唱です。
 このエピソードは、『バール神と主なる神のどちらが本当の神かを競う事になり、生け贄の羊を捧げて、天から火が降ってきた方が本当の神である』という話です。
 先にバール神教徒達が神に、願いを聞き入れてくれるように呼びかけます。
 この部分の合唱が全曲の中でわたしのもっとも好きな部分なのです。
 このバール神教徒たちの合唱は、バール信仰がまやかしであることを象徴するかのように、かなり単純な書式で作曲されています。
 まあ、要するに、「ニーベルングの指輪」の巨人のテーマと同じ発想ですね。
 しかし、『シンプル・イズ・ベスト』の言葉通り、構成がシンプルであるため曲の響きも純粋になり、かえって民衆のバール神に対する真摯な気持ちが強く感じられるのです。
 音楽が単純な響きになればなるほど、民衆の心の純粋さが逆に浮き彫りになってきます。
 そして、この呼びかけに対して、当然の事ながらバール神は応えてくれません。旧約聖書なんですから当たり前です。
 しかし、その応えてくれないところに、聴いている方としてはますます同情を掻き立てられます。
 さらに、バール神教徒の呼びかけに何も反応が無いのを見て、エリアが、「何だ。お前達の神のバールは応えてくれないのか? どこかに行っているのか? 寝てるんじゃないのか?」と皮肉タップリに訊く辺りは、だんだんエリアが憎たらしく思えてきます。
 その上、民衆が「バール神よ! 起きてください! お願いします!」と悲痛な叫びを上げるに至っては、そのあまりにけなげな姿に、わたしの気持ちは完全にバール神教徒の応援の方に回っています。
 もし、自分がイスラエル王の立場なら、「バール神教徒、無罪。エリア、有罪」と判決したことでしょう(笑)
 ちなみに、バール神からの反応が何も無かった後、エリアが静かに主なる神に呼びかけると、空から雷が落ちてきて、生け贄を焼き尽くすのですが、わたしとしては、あまりにも嫌味たっぷりなので思わず殺意を覚えるほどです(笑)
 その上、自分の方は天からの応えがあったのをいいことに、エリアはバール神教徒達を殺してしまいます。
 聴いているわたしは、「あ、こら、エリアなんて事をしやがる。お前よりバール神教徒の方がよっぽど善人だぞ!」と、もうエリア憎しの気持ちで一杯です。
 …………
 ………
 ……
 …
 おや? いつのまにかエリアの方が完全に悪役に☆(笑)

 どう考えても、旧約聖書やメンデルスゾーンの意図とは正反対の方向に行っていますね。

 それにしても、メンデルスゾーンがこの曲を書いた当時は、この部分を聴いて、わたしと同じように感じた人はいなかったんでしょうかねぇ?
 それとも、みんな子供の頃から聖書の理念を叩き込まれているので、そういう風には思わないんでしょうか。
 しかし、メンデルスゾーンもメンデルスゾーンで、この部分にここまで綺麗な音楽を書かなければいいのに、なまじ音楽が素晴らしいため、わたしみたいに却ってバール神教徒の方に共感する者が出たりするんです(笑)

 さて、演奏の方では、まず印象に残るのが合唱の上手さです。
 ハーモニーが綺麗なだけではなく、ピアノからフォルテまでのダイナミクスも広く、アーティキュレーションも統一されています。
 なにせ、この曲は合唱が命なので、合唱が揃っているだけで大幅にポイントがアップします。
 ちなみに、この中央ドイツ放送合唱団は、1968年にサヴァリッシュがライプツィヒ・ゲヴァントハウス管と「エリア」を録音した際も合唱を担当しています。
 しかし、その時よりもこの演奏の方が綺麗なハーモニーを聴かせてくれます。

 また、マズアもこの曲の劇的な面を強調するよりも、精緻によくまとめた演奏にしています。
 単にまとまった演奏とというと、何だか聴いていて退屈しそうな印象を受けると思いますが、実際には音楽自体は生き生きとしているため、無理をしない分だけ曲の隅々がわかり、却って曲の良さが伝わって来ます。(2001/11/16)


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