指揮 | ロヴロ・フォン・マタチッチ |
出演 | ツェータ男爵(バリトン):ヨーゼフ・クナップ ヴァランシエンヌ(ソプラノ):ハンニー・シュテフェック ダニロヴィッチ伯爵(バリトン):エバーハルト・ヴェヒター ハンナ・グラヴァリ(ソプラノ):エリザベート・シュワルツコップ カミーユ・ロジヨン(テノール): ニコライ・ゲッダ 他 |
演奏 | フィルハーモニア管弦楽団 フィルハーモニア合唱団 |
録音 | 1962年7月2〜7・9・12日 |
発売 | 東芝EMI |
CD番号 | TOCE-8583・84 |
今年(2002年)最後の更新ですし、最後は華やかな曲で締め括りたいと思います。 というわけで、「メリー・ウィドウ」です(笑) この、いかにもオペレッタの典型のような明るく楽しい「メリー・ウィドウ」には、それこそ数多くの聴き所があります。 一つ一つ挙げていったらキリが無いほどですので、わたしの特に好きな曲をピックアップして書きたいと思います。 まず、一番印象に残ったのは、第3幕のヴァランシエンヌとグリゼット達との合唱です。 この場面は、ヒロインのハンナが自邸に、ダニロが通いつめているパリのマキシムというキャバレーを、グリゼットと呼ばれる踊り子達ごと移してきて、公使夫人であるヴァランシエンヌがグリゼット達と一緒に、グリゼットの真似をして踊る場面なのですが、メインで歌っているヴァランシエンヌの歌い方が凄いのです。 もうホルモン全開という感じで、大人の女の魅力がバンバン伝わって来ます。 ここまでイヤラシクかつ魅力的に歌った演奏は、他には無いのではないでしょうか。 さて次は第2幕の冒頭からヴィリアの歌の辺りです。 ここも、ハンナの自邸が舞台で、いかにも夜会に相応しい華やかな雰囲気です。 その直後に、速いテンポで、後で合唱が『さあ歌い、騒ごう』と囃すメロディーが出てくるのですが、この部分でこの演奏は、マンドリンを加えているのですが(たしか他の演奏には無かったと思います)、これが非常に軽快で、ジーグのようにスピード感に溢れています。 後で入ってくる合唱も華やかで、ポイントポイントで鋭く入るタンバリンが、これまた花を添えています。 一方、ヴィリアの歌は、打って変わって静かな雰囲気で、シュワルツコップの歌声とメロディーの美しさは全曲の中でも随一のものだと思います。 その次も第2幕で、男七人の七重奏によって歌われる「女のマーチ:女共をどんな風に取り扱ったらよいのか?」です。 これも、非常に調子の良い曲で、男達が集まって『女なんて!』と気勢を上げているのですが、それでも女好きで女に弱い事は皆変り無く、気勢を上げている筈が、どんどん哀れな雰囲気になっていくところが面白く、曲調がコミカルな事も相まって、とても楽しい曲です。 また、この曲はその場で観客からアンコールされる事も多く、わたしが見に行った実演でも、指揮者も調子に乗って何回もアンコールに応えてしまい、歌っている方が体力の限界に来てしまい『もう勘弁してくれ』と目で合図を送っていた事もありました(笑) 後、忘れてはならないのが、あちこちに出てくる「マキシムへ行こう!」のメロディーでしょう。 このメロディーは、単独でも有名なのですが、オペレッタとは直接関係無い別のエピソードによってもよく知られています。 全ては、ヒトラーが『メリー・ウィドウ』を好んでいた事から始まります。 そのため、ショスタコーヴィチは、ナチスの象徴としてこのメロディーを彼の交響曲第7番<レニングラード>の侵略のモチーフとしてパロディにし、そのショスタコーヴィチをさらにパロディにしたバルトークの『管弦楽のための協奏曲』の第4楽章まで生まれたのです。 レハール本人は結構長生きで、亡くなったのは戦後ですから、もしかしたら、どちらかあるいは両方とも聴いた事があるかもしれません。 もし、本当に聴いた事があれば、パロディにされた事情が事情だけに非常に複雑な気分になった事でしょう。 他にも、第1幕のパリ男達の立候補する場面の音楽とか、第2幕のハンナの「バカな騎士さん!」とか、第3幕直前の間奏曲とかいろいろあるのですが、さすがにキリがありませんのでこの辺りで止めておきます。 全体としては、非常に臨場感溢れる演奏です。 登場人物の一人一人が生き生きとしていて、単純に美しく歌うよりも、役柄により相応しいように感情に大きく起伏をつけて歌っています。 かなりドラマチックな傾向を強調した演奏とも言えるでしょう。 聴いていて楽しい演奏で、わたしはこういう演奏は大好きです(2002/12/27) |