F.J.ハイドン 交響曲第96番 ニ長調 <奇跡>

指揮トーマス・ビーチャム
演奏ロイヤル・フィルハーモニック管弦楽団
録音1957年10月5・6・10日、11月3日
カップリングハイドン 交響曲第93番 他
ハイドン ロンドンセットの一部
発売EMI
CD番号CMS 7 64389 2


このCDを聴いた感想です。


 ゆったり生き生き。

 なんだかどこかの敬老会の標語みたいですが、ビーチャムのロイヤル・フィルとのロンドンセットは、だいたいこんなイメージが当てはまります。
 この第96番<奇跡>は、その典型的な演奏で、特に第1楽章の呈示部以降や第4楽章などテンポの速い部分は、一定のテンポを保ってどんどん進んでいくのに、急いだりしゃかりきとかいった雰囲気は無く、むしろゆっくりとしたテンポで演奏しているかのように余裕が感じられます。
 かといって反対に重くも無く、むしろ逆に動きは軽く、リラックスして明るく伸び伸びと演奏されています。そして、なにより木のような暖かさがあります。
 その一方で、妙に緊張感の高いのが第2楽章です。
 テンポ自体かなり遅めで、さらに、音の一つ一つを実にじっくりと丁寧に演奏しています。
 音一つにあまりにも力を入れすぎて、テンポなんて遅い上にさらに伸び縮みしていますし、メロディーの流れも半分崩れかけているほどです。
 他の三つの楽章と較べて異常に重く、完全に別の世界になっていますが、それでも明るく暖かいのは他と同じで、この辺りは、やっぱりビーチャムの特性なんでしょうね。この曲のみならず他の曲にまで共通しています。
 そして、第3楽章は、実は最も力強い音楽がここの主部です。
 アタックはそう強いわけではないのですが、重さがあり、緊張感の高いキレのある音でグッと力を込めています。
 これは、トリオ部との対比もあるのでしょう。
 そのトリオ部は、主部と正反対に全曲の中で最ものんびりとした部分です。
 メロディーを担当するオーボエは緊張感なんてどこを吹く風、草原で寝転んで日向ぼっこをしているごとく思いっきりのびのびと吹いています。
 テンポもかなり遅めで、なんだか「田舎」とか「散歩」という言葉が似合いそうなリラックスした雰囲気です。
 トリオ後半に、オーボエのソロで、分散和音を素早く吹く部分があるのですが、その動きがあまりにゆっくりしているのにはさすがに驚きましたが。

 録音状態は、1950年代後半の年代相応といったところで、スタジオ録音ということもあり雑音もほとんど無く聴きやすいのですが、一つ大きな注意点があります。
 実はこの録音、モノラル録音なんです。
 わたしの知っている限りEMIはスタジオ録音の導入はそう遅くなかった方で(フランスEMIは遅かったようですが、これはイギリスの録音でしょうし)、カンテルリのブラームス第3番なんて1955年で既にステレオにもかかわらず、なぜかもっと後の1957年のこの録音はモノラルのままです。
 別に、もともと録音したのは別会社でそれを買い取っているというわけでもなく、どちらも元からEMIによる録音のようなので、どうして後の方がモノラルなのか不思議です。
 さらに、セット全12曲の中で、前半の第93番から第98番まではモノラルなのに、後半の第99番以降はステレオになっているのも、なんだか今一つ統一性がありません。
 普通に考えれば、後半は技術が進歩してからの録音なのでステレオにしたというところでしょうが(実際、ビーチャム以外でもステレオとモノラルが入り混じった全集もたまに見かけます)、前半最後の曲が録音されたのが1958年4月(ちなみに開始は1957年3月)で、後半最初の曲が1958年5月と、ほとんど一ヶ月くらいしか間がありません。
 だったら、録音するのをもうちょっと待って、ロンドン・セット全部ステレオで録音して欲しかったものですね。(2005/1/15)


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