F.J.ハイドン 交響曲第85番 変ロ長調 <王妃>

指揮フランス・ブリュッヘン
演奏18世紀オーケストラ
録音1996年11月
カップリングF.J.ハイドン 交響曲第82番 <熊> 他
「パリ交響曲集」の一部
発売PHILIPS
CD番号462 111-2


このCDを聴いた感想です。


 副題の「王妃」というのは、マリー・アントワネットがこの曲を好んだことから付けられたらしいのですが、曲自体も「王妃」というイメージそのままに優雅な雰囲気が多い曲です。
 なかでもこれは「優雅」というのが第1楽章の呈示部以降です。
 2/2拍子の遅いテンポながら力強い序奏が終わった後、3/4拍子の速いテンポの呈示部になりますが、これが穏やかで上品な音楽なのです。
 メロディーは同じ音を2小節ほどずっと伸ばして3、4小節目で四分音符で少しだけ動く非常に単純なもので、伴奏も一拍ずつ音階で下がっていくというこれまた単純なものなのですが、これが組み合わさると、不思議なほど気品のある優雅な雰囲気が表れます。テンポは速いVivaceのはずなのに、なんだか大きな舞を見ているかのようにゆったりとした気分になってきます。
 個人的にはこの呈示部だけで「王妃」が強く記憶に残る曲になったほどで、それほどこの雰囲気は印象的でした。
 また、なかなか面白いのが第2楽章です。
 この楽章のメロディーは「優しく若いリゼット」という当時パリで流行っていて歌曲を主題としたもので、後に交響曲第100番<軍隊>の第2楽章でも使われたものらしいのですが、この二つを較べると同じ曲を主題としているようには思えないぐらい違って聞こえます。
 たしかにメロディー自体は言われてみれば「ああ、なるほど。そういえば」と納得できるぐらいは近く、和音もおそらくほぼ同じなのでしょうが、逆に言われないとわからないぐらい、受ける印象はかなり違います。
「軍隊」の方が縦のリズムを中心とした直線的な硬い雰囲気が強いの対して、「王妃」の方は横のメロディーを中心とした、流れるような柔らかい雰囲気なのです。
「軍隊」のサッと動いてカチッと止まるというメリハリのある動きと、「王妃」の川のように常に横に流れていく動き、全く対照的ですが、それぞれ曲によく合っています。

 ブリュッヘンの演奏は、どちらかというと音のキレ重視でそれほど優雅な雰囲気を強調していません。
 しかし、第1楽章呈示部でメロディーの伸ばしている音には雰囲気を感じました。
 ビブラートのかけ方がうまく、同じ音を伸ばしているだけなのに音にどんどん広がりが出て、大きくゆったりとした空間を生み出しています。決して柔らかく演奏しているわけではありませんし、太い音でもないのに、広がりのある優雅な音楽になっています。
 さらに、3、4小節目の動くところでスッと力を抜いて、力ずくの強引な音楽ではなく引くべき所では一歩引けるという品の良さもうかがわせます。
 ただ、ブリュッヘンの聴き所はそれだけではなく、むしろそれ以上に速く動く部分にあると思います。
 同じ第1楽章の途中で、弦楽器が速いテンポで音階を上に駆け上がっていく動きがありますが、その鋭さ、キレ、なにより生き生きとしたところに圧倒されました。
 同じような上に登る動きでも、昔の指揮者のように力を込めて盛り上げるぞ盛り上げるぞというギラギラしたものではなく、本当に軽くサッと駆け上っていながら、子供のように楽しく生命力に溢れていて、キラキラとしているのです。
 これは第4楽章でも聴くことができますし、他にも、第3楽章では楽器のバランスの良さが際立っていました。弦楽器を前面に出し、ホルンを後ろに隠して響きだけを生かしています。これにより弦楽器のキレの良さを存分に出しながらも、ホルンが後光のように取り巻くことで表情がきつくなり過ぎるのを上手く和らげいます。
 優雅だけでもなければキレだけでもない。いろいろ聴き所の多い演奏です。(2005/6/18)


サイトのTopへ戻る