F.J.ハイドン 交響曲第104番 ニ長調 <ロンドン>

指揮ジョン・バルビローリ
演奏室内管弦楽団
録音1928年3月1日,7月17日
カップリングエルガー 「序奏とアレグロ」 他
「The JOHN BARBIROLLI Chamber Orchestra」の一部
発売DUTTON(HMV)
CD番号SJB 1899


このCDを聴いた感想です。


 バルビローリは1899年の生まれですから、この録音は、まだ30歳にもならない本当に若い頃の演奏です。ところが、バルビローリ自身の録音としては、ずっと古いものがあります。最も古いものは、CDのリーフレットを読む限りでは1911年。なんとバルビローリが11歳の時のものだそうです。もっともそれは指揮者ではなくチェリストしての録音であり、指揮者として最初のものは今回の録音の1年前の1927年1月のものだということです。
 当然、指揮者としてはまだまだ駆け出しに近い頃で、率いているオーケストラも、室内管弦楽団(National Gramophonic Society Chamber Orchestra)という聞いた事も無いオーケストラです。上記同様、CDのリーフレットを読むと、どうやら、事実上バルビローリの専属オーケストラっぽいのですが、どうにも得体の知れない団体です。腕前の方は、ずば抜けて上手いというほどでは無いにしても、それほど大きな破綻もありませんし、十分に聴ける水準にはあります。
 まあ、オーケストラについての詮索は置いておきましょう。さて、演奏の方ですが、やはり聴き所は第2楽章です。
 なかなか濃厚な歌いっぷりです。
 第2楽章の形式は、みなさんご存知かと思いますが念のために申し上げると、ハイドンではよく見られる、テーマに基づいた変奏曲という、いかにも古典派らしい形式です。多くの演奏、特に古楽器系の演奏では、テンポをしっかりと保ち、変奏の違いを明確に出すことが多いと思いますが、バルビローリは違います。
 古典派ではなく、まるでロマン派の緩徐楽章を演奏しているかのように、情熱を込めて歌っています。きっと楽譜の最初に「ロマンツァ」とでも書かれているのに違いありません。
 メロディー全体を歌うだけでなく、音符一つ一つに至るまで、踏みしめるように歌いこんでおり、よく登場するフォルツァンド(fz)では、全体のバランスを考えてないのではないかと思えるくらい、全力で踏み込むように重みをつけています。
 むしろ、あまりにも細部に力を入れるため、聴いている内にメロディーが何だか分からなくなってくるほどです。
 しかし、それだけに表情付けは濃厚で、しかも、メロディーとしての横のつながりを少しでも高めようとしてか、音と音をポルタメントでつないだりもしているため、なにやら退廃的な香りまで漂ってきます。
 もう、古典派らしい形式など完全に遠い彼方へ消え去っていますが、バルビローリの、ここは他の全てを犠牲にしてもとにかく歌い込みたいという情熱が熱く伝わってくるため、 ここまで来ると、拍手を送りたくなります。
 他の楽章も第2楽章ほどでは無いにしても、やはり犠牲を払ってでも歌いこんでいます。
 第3楽章では、主部はインテンポで進むため、意外と普通だと思っていると、トリオで驚かされます。オーボエとヴァイオリンのメロディーの、「ミソーミソー(DF-DF-)」で大きくテンポを落としてフレーズを強調しています。ただ、これは、上に上がった音が長いと少し間延びした感じに聞こえるため、ちょっと失敗かなと思いましたが。
 第1楽章と第4楽章は、テンポの良さが重要であるため、他の楽章ほど大きくは変えていません。
 それでも、弱いピアノの部分になると、なぜか急にテンポが落ち、じっくりと歌い始めます。第4楽章の終盤で、フォルテで全体が大きく鳴った後、オーボエ2nd、オーボエ1st、フルートの順に、その3本だけでメロディーを演奏する場所がありますが、ここなんかは、だんだんテンポが遅くなり、一音一音しっかりと歌いこみます。他の楽器が入ってくる直前辺りは、ほとんど止まりそうで、すでにメロディーで無くなりつつあるのも気にせず、さらにはわざわざ音を分けて歌いこんでいます。
 これほどのテンポを動かしてまでの歌いこみは、今ではほとんど見られない、19世紀後半からの伝統のいかにもロマンティックな歌わせ方です。しかも、チャイコフスキーとかならいざ知らず、ハイドンでやっているのがまたすごいところです。いやもう、この手の演奏の権化と言われるメンゲルベルクでもハイドンではここまではやらないのではないでしょうか。
 ちなみに、バルビローリはこの曲をここで録音して以後、再録音はしていないようです(ライブ録音はあるかもしれませんが)。ということは、バルビローリはこの録音に満足していたのでしょうかね。できればハレ管辺りと、もっと良い録音で再録音して欲しかったものですが。(2010/5/22)


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