F.J.ハイドン オラトリオ「天地創造」

指揮ヘルムート・コッホ
出演ソプラノ(ガブリエル、エヴァ):レギーナ・ヴェルナー
テナー(ウリエル):ペーター・シュライアー
バス(ラファエル、アダム):テーオ・アダム
演奏ベルリン放送交響楽団
ベルリン放送合唱団
録音1974年1月28日〜2月9日
発売徳間ジャパンコミュニケーションズ(Schallplatten)
CD番号TKCC-15159


このCDを聴いた感想です。


 この演奏には祝祭的なキラキラとした輝きはありません。
 古楽器の演奏のようなスピード感やキレの良さもありません。
 しかしそんなことはこの演奏にとってたいした問題ではありません。
 この演奏はもともとそういう方向を目指していませんし、むしろその反対の部分に魅力があります。
 耳につきやすい金属的な輝きを抑えた、木のように柔らかい全体で一体となった響き。華やかでは無いものの落ち着いていて、暖かく厚みがあります。
 ゆったりとしたテンポによる安らかな雰囲気。メロディーも特に表情豊かに歌いこんでいませんが、それが逆にメロディーが伴奏から浮いてしまうのを防ぎ、全体の優しい響きによく溶け込んでいます。
 さらに伴奏と一体となって歌詞の雰囲気をよく伝えていて、大地や生き物といったさまざまな創造物が作られていく様子や神が頷いたり天使が祝福したりする様子が、まるで母親が幼い子供に語るようにあくまでも明るく優しく歌われています。
 オーケストラと合唱に較べて三人のソリストは少しドラマチックに感情を込める傾向が強いのですが、それでも極端というほどではなく、全体としてはやたらと大げさにしてみせるのではなくあくまでも自然な雰囲気を大切にしています。
 三人のソリストはなまじ実力があるだけに全体の響きの中に納まりきれずどうしても目立ち気味なのですが、これはこれでちゃんと意味があります。
 オーケストラと合唱はたしかに暖かい自然な響きなのですが、かといってその響きばかりずっと続いてはさすがに単調になってしまいます。
 そこにソリストがある程度強めに表情をつけて歌うことで変化が出て、換気がよい部屋のように常に新鮮さが保たれています。
 この点は、変化があるのを良しとするか、それともまとまった雰囲気が壊さない方を良しとするかとどちらもありえると思うのですが、わたしはこの演奏のように少しぐらい雰囲気が乱されても多少変化がある方が良いと思います。
 しかし、この三人のソリストの、ソプラノのヴェルナー、テナーのシュライアー、バスのアダムはさすがに実力者ですね。
 テクニックが素晴らしいだけでなく、登場するだけで全体のスケールが一回り大きくなりますし、合唱が一緒だったりオーケストラがフォルテで演奏していてもその堂々とした歌いっぷりは常に存在感があります。
 指揮のヘルムート・コッホはオーケストラというよりむしろ合唱の指揮で有名で、そもそもこの曲で歌っているベルリン放送合唱団を創設したのがコッホです。1948年の創設以来四半世紀以上に渡って指導しているので最も気心が知れていて手足のように自由自在に動かせるはずですが、この演奏では合唱は控えめで残念ながら印象に残る点はあまりありませんでした。
 もっとも解説によると合唱指揮はヴォルフ=ディーター・ハウシルトとなっていてコッホ本人ではありませんのでコッホはオーケストラの指示の方に専念していたのかもしれません(ちなみにこのハウシルトは録音時にチェンバロも担当しています)
 それでもフォルテ部分での合唱などは迫力のある厚い響きでしかもそれで濁りがほとんど無い辺り合唱団の実力の一端を垣間見ることができました。
 ところで、この録音が行なわれたのは1974年1月28日からなのですが実はその一年後には既にコッホはこの世にいません。1975年の1月26日に亡くなったのです。
 つまりこの演奏は亡くなるほぼ一年前の録音になるわけですが音楽だけ聴いているととてもそうは思えないくらいしっかりしていて乱れも全くありません。亡くなった年に来日する予定もあったらしいのでもしかしてかなり急死に近かったのでしょうか。
 ただ、録音の際にいくらオラトリオが大作だからといってもかなり長い二週間近くもかけている点から考えると当時からそれほど体調は良くなく騙し騙しやっていたのかもしれませんね。(2004/5/15)


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