E.エルガー 行進曲「威風堂々」第1番 ニ長調

指揮ヘルベルト・ケーゲル
演奏ドレスデン・フィルハーモニー管弦楽団
録音1986年3月3〜7日,10月9〜10日,1987年3月5日
カップリングベートーヴェン 交響曲第1番 他
発売CAPRICCIO
CD番号49 314


このCDを聴いた感想です。


 強烈に個性的な演奏です。
 行進曲というと、テンポやリズム、メロディーの扱いには、だいたい常識的な範囲があり、ほとんどの演奏はその範囲内で収まるか、はみ出していても多少ですから、指揮者の個性が出ていても、それほど極端に違いが出ることはあまりありません。
 標準的な演奏をph7として、例えば、クナッパーツブッシュやフルトヴェングラー辺りをphの1や13ぐらいとすれば、行進曲の演奏というのは、おおむねph6〜8程度で、行進曲以外では2とか12を叩き出すような指揮者でも、せいぜい5や9ぐらいで、基本的に個性が出難いジャンルです。
 しかし、ケーゲルのこの演奏は、phでいえば……11〜12クラスまで行っているんじゃないでしょうか。
 まず、テンポからすでに極端です。
 序奏部はいきなりトップスピードの気合十分の音で入ってきたかと思うと、主題部の前で遅くなり、主題部自体は重さのあるじっくりとしたテンポ。続いて出てくる回りながら上に上がっていく動きのメロディーから次第に速くなり、頂点から音階で下がっていく動きの部分では、猛スピードになります。これがまたもとの主題部のメロディーに戻るとまた重く遅いテンポに戻るのです。この大きなテンポの変化以外にも細かくテンポは揺れ動き、行進曲なのに同じテンポは2小節と続いていないのではないかと思えるほどです。
 もともとコンサート用の行進曲ですが、まかり間違ってもこの演奏に合わせて行進しようとはいけません。途中で渋滞したり、かと思うと間が開きすぎたりと、ムチャクチャになること請け合いです。
 実は、テンポが変わる部分は、楽譜にも括弧付きではありますが、テンポが速くなる部分にはAnimato(動きを付けて)と、主題部にはa tempo(もとのテンポで)と指示が記載されているため、このテンポ変化もあながち指揮者の勝手な解釈でも無いのですが、他の演奏ではその指示を無視していることも多く、やっていてもこの演奏ほど極端に変えている演奏はありません。
 さらに、二回目のトリオの前、全体が音階で上がって行き、トリオに向かって盛り上げる部分は、楽譜にallargando(しだいに遅く強く)という指示があり(楽譜が手元に無いのでうろ覚えですが……)、これはどの演奏でもクレッシェンドしつつテンポを遅くしていきます。そして、トリオに入る直前の音は、次に合唱が入ることもあってか、それまでよりもひと際長く伸ばしたり、あるいは一瞬間を空ける演奏が多いのですが、ケーゲルは、なぜか最後の音が短く、余韻を全く持たせずトリオに入っています。他の演奏がここぞとばかりに粘りに粘って盛り上げるのと対照的で、妙にあっさりしています。イギリスの演奏なら必ずやるであろう慣例を嫌ったのか、それともそれまでに十分に盛り上がっているから十分だと思ったのか、面白いところです。
 テンポだけでも十分個性的ですが、響きというか、楽器のバランスも同じくらい変わっています。
 金管と打楽器、特に打楽器が圧倒的な存在感を誇っています。
 主題部では、メロディーの音が低いこともあってか、メロディーよりも上下に動くティンパニーのほうが目立っています。強弱記号ではたしかティンパニーはメロディーよりも1段階か2段階ぐらい弱い指定のはずですが、完全に無視しています。
 トリオでは、前半の静かな部分は平和なものですが、後半の力強い部分では、トランペットが吹くメロディーがかろうじて残っている程度で、ほとんどスネア・ドラム(小太鼓)を中心としたリズムの独擅場です。トランペットのメロディーと、「ズダン、ズダン」と一拍毎に入るリズム以外はほとんど聞こえず、和音の分厚い響きなんてどこかへ消し飛んでしまっています。いやもう、この演奏を聴いて、そういえば鈴も入っていたっけと初めて思い出したぐらいです。
 威風堂々の5曲の中で、この第1番だけ妙に打楽器が多く入っているのですが、その特徴を思う存分、とことんまで活かしきっています。
 いや、ほとんどやり過ぎも同然なのですが、他の威風堂々第1番の演奏とは次元一つ超えたぐらい個性的な面白い演奏です。(2006/12/2)


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