E.ブロッホ ヴァイオリン協奏曲

指揮ウィレム・メンゲルベルク
独奏ヴァイオリン:ヨーゼフ・シゲティ
演奏アムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団
録音1939年11月9日
発売及び
CD番号
Music&Arts(CD-270)
Q DISC(97016)


このCDを聴いた感想です。


 ブロッホという作曲家は、もっとも「ユダヤ」の色合いが濃い作曲家だそうです。
 わたしは残念ながらこのヴァイオリン協奏曲しか聴いたことが無いのですが、この曲を聴いた限りでは、どういう点が「ユダヤらしい」のかよくわかりませんでした。
 もっとも、後にCDに付属のリーフレットをざっと読んだところ、どうやらこの曲はブロッホにしては例外的にユダヤ的要素があまり濃くなく、代わりにネイティブ・アメリカン(アメリカ・インディアン)の要素が取り入れられているようです(原文が英語なので間違えて訳しているかもしれませんが(汗))
 ユダヤ的なものを期待するなら「ヘブライ狂詩曲<シェロモ>」とか「ユダヤ教典礼のための<神聖な儀式>」あたりを聴いたほうがよさそうです。
 ただ、そもそもユダヤ的な音楽というのがどんな音楽か知りませんので、その辺りを聴いてもやっぱりわからない可能性の方が高いのですが(汗)
 まあ、自分でもよくわからないユダヤ的やインディアン的なものはこの際考えからはずして、単純にヴァイオリン協奏曲を聴いての印象としては、ひたすら哀愁に満ちているように感じました。
 第1楽章は、スピード感のある、鋭く切り裂くような哀愁に満ちたメロディー。
 第2楽章は、ゆったりとして、しみじみと歌い込んだ哀愁に満ちたメロディー。
 第3楽章は、動きの激しい、力強さも垣間見える哀愁に満ちたメロディー。
 そんな、真夜中とか曇天とかのような、真っ暗闇だったりどんよりと落ち込んだ暗さではないのですが、もちろん真昼間の光が燦々と照りつけているような明るさでもありません。
 西の山の向こうに太陽が沈んでしばらくしてからのような、光源は既に無いものの、空に残光が残っていて、徐々に消え行くといった黄昏た雰囲気です。
 どんなに曲が激しくなっても、どこか寂しげで、吹っ切れずに後ろ髪を引かれるような陰があります。
 この雰囲気は、人によっては聴いていると滅入ってしまうため、好まれない方もいらっしゃるかもしれません。しかし、それさえ気にならなければ、陰があることによって情感に強く訴えかけられ、心にしみじみと染み渡ってきます。
 ほぼ最初から最後まで雰囲気は変わらず、明るい部分などは、第1・2楽章には無いと言い切ってしまえるぐらいほとんど無く、唯一、第3楽章にまとまって登場します。
 ただ、周りが暗いだけに、明るい部分はそこだけ花が咲いたように目だっています。
 もちろんいくら花といっても、向日葵やバラのような派手なものではなく、もっと淡く控えめで、力強さはありません。
 大きな広がりはあるのですが、軽く清々しく、後ろ向きの哀愁の代わりに、まるで追い風に吹かれているように、気持ちがどんどん前に進んで行きます。
 ずっと暗くて息が詰まりそうだったところにスッと入ってくる、一服の清涼剤といったところですね。

 さて、演奏の方ですが。
 ヴァイオリン・ソロは、ヨーゼフ・シゲティなのですが、メンゲルベルクとの録音は、この一曲きりです。
 貴重な共演の記録というわけです。
 ついでに、シゲティは、このヴァイオリン協奏曲の初演者でもあります。
 その年月日は1938年12月15日(指揮:ミトロプーロス、クリーブランド管)ですから、この演奏は、初演からまだ一年も経過していません。まだ、ほとんど馴染みの無い曲の筈なのですが、その割にはソロもオーケストラも戸惑っているようなところが全くありません。
 たった一年の間によほど演奏したのか、それとも曲が簡単で楽譜を見てすぐに演奏できるような曲だったのかはわかりませんが、どちらも堂々と演奏しています。
 シゲティのソロは、シゲティの他の演奏を聴いていないので他とは比べられないのですが、意外なほどよく歌っている印象を受けました。
 曲調もあるので、あまり『甘く』とかそういった感じではないのですが、音に伸びがあり、表情を豊かにつけながらも力強く、流されずにピシッと一本貫いた芯が感じられます。
 一方、伴奏のメンゲルベルクは、控える部分と出る部分の差をハッキリとつけた、メリハリのある演奏です。
 ソロが演奏している時は、バックでメロディーを演奏していても、ポルタメントも少なく、抑えて歌わせています。
 逆に、木管のソロや、金管が登場する部分は、かなり思い切って前面に出てきます。
 特に金管は、ファンファーレ風に扱われていることもあって、突き刺すような鋭い響きで、直前までの雰囲気を断ち切るかのように、強く決然と吹かせています。
 ただ、いくら強くなっても少し暗めの音色が保たれていて、全体の雰囲気は崩さないように配慮されているため、違和感はありません(2004/2/14)