D.ショスタコーヴィチ 交響曲第6番 ロ短調

指揮エフゲニー・ムラヴィンスキー
演奏レニングラード・フィルハーモニー管弦楽団
カップリンググリンカ 歌劇「ルスランとリュドミラ」序曲 他
ムラヴィンスキー全集28「超絶の管弦楽名演集」の一部
録音1965年2月21日
販売BMG(MELODIYA)
CD番号BVCX-4028(74321-49294-2)


このCDを聴いた感想です。


『終わりよければ全て良し』という言葉がありますが、この交響曲第6番ほど、終わり方でその曲の印象が決定付けられた曲はありませんでした。

 で、その印象はというと……

「な、なんて脳天気なんだ!」

 というものでした(笑)

 しかし、実は、最後以外は、暗く重苦しかったり、狂騒的な雰囲気があったりと、むしろ明るさとは正反対の音楽です。
 そもそもこの曲は、交響曲の一般的な構成とは少し異なり、全部で3楽章しかありません。
 しかも、第1楽章がラルゴ、第2楽章が3拍子系のアレグレットで、第3楽章が2拍子系のプレストという構成で、いわゆる4楽章構成の交響曲の第2・3・4楽章のような性格に近いものです。まあ、このあたりが『第1楽章の欠けた交響曲』と呼ばれる所以なのでしょう。
 第1楽章は、実は全曲の半分以上がこの楽章に費やされているのですが、前作の交響曲第5番の第1楽章と第3楽章の雰囲気をミックスしたような感じで、まるでシベリアの寒寒とした広い荒野を髣髴させるような暗く重苦しくて冷たい雰囲気があります。
 それに対して、第2楽章は、交響曲第5番の第2楽章をさらに狂騒的にしたような感じです。
 メロディーが一音一音をハッキリと切った勇ましいものであったり、Esクラリネットが悲鳴のようなメロディーを演奏するところといい、非常に良く似ています。
 前作の第2楽章との一番大きな差は、より刺激的で、狂気の強い音楽になっているということでしょう。
 一方第3楽章も、初めの方は、第2楽章の狂騒的な雰囲気を大分引きずっています。
 しかし、音楽は次第に健康的になり、さらにスピード感が強く感じられるようになってきます。
 それでも、途中までは、ちょっと狂気が垣間見えたりして、健康的ながらもちょっと影のある奥の深さがあります。
 それが急激に変わるのは本当に最後の1分間ぐらいのところで、音楽が急に突き抜けたように明るく派手になってきます。
 これが最後の10秒間になると、さらに傾向が極端になり、わたしが冒頭に書いたようなお祭り騒ぎのような脳天気な音楽になってしまうのです。
 その上、ムラヴィンスキーは、タンバリンを楽譜に指定されている以外の場所で思いっきり叩かせたりもしているので(曲に使用される楽器ではあります)、ますますお祭り騒ぎ以外何物でもないように聞こえます。
 かと思えば、これもムラヴィンスキーの解釈かもしれませんが、どんどん加速していって、『さあ、そろそろ最後の締めか!?』と身構えたところで、スパッとぶった切るように急に終わってしまうのです。
 気分的には、走っている最中に急に後ろから引っ張られたようなもので、思いっきり前につんのめってしまいそうになります。
 この最後の部分の印象があまりに強烈なため、その前までの暗かったり狂騒的だった印象は綺麗サッパリ押し流されてしまい、もう一度曲の頭に戻って聴き始めても、そのあまりのギャップにとても同じ曲とは思えませんでした(笑)

 ショスタコーヴィチ本人の発言によると、この交響曲第6番という曲で『青春と喜び、若々しい気分』を伝えたかったらしいのですが、そう言われてみると、第1楽章の暗さは『若さ故の青春の悩み』と取れなくもないですし、第2楽章も『悩みを突き詰めすぎて狂気に近づき攻撃的な面が表れている』と取れるかもしれません。
 でも、そうなると最後のお祭り騒ぎに至っては、
『いくら考えても、わからないものはわからないよな〜 深く考えてもしょうがないか。まっ、パッと行こかー(笑)』
 ……という台詞がわたしの頭の中に浮かんでくるのですが(笑)
 本当は、この明るさの裏にも、第5番の終楽章で最近よく取り沙汰されているような『強制された明るさ』があるのかもしれませんが、わたしにはそこまでは読み取れませんでした。
 まあ、指揮者がムラヴィンスキーですので、もともとそんな意図は無かったと思います。

 ムラヴィンスキーの演奏は、曲の特徴を割と強調した演奏だと思います。
 つまり、重苦しい部分はより重苦しく、冷たい部分はより冷たく、そして、明るい部分はより派手に(笑)
 もちろん、メンゲルベルクでは無いのですから、テンポを崩したりはしませんし、芝居がかって見せる事もしません。あくまでも楽譜をほとんど変えない範囲内での話です。
 しかし、この強調によって音楽の表情が豊かになり、曲の魅力が非常に良く伝わって来ます。
 さらに、これはロシアオケの特色かもしれませんが、鋭い響きが音楽に迫力を与えています。特にトランペットに代表される金管楽器の突き刺すような音色は素晴らしく、弦楽器等の音の壁を真っ二つに切り裂いて耳に届いてくるところなんかは、もう圧倒される思いです。

 余談ですが、ムラヴィンスキーはこの交響曲第6番の初演者でもあります。
 で、その初演の日付が、1939年10月5日
 ほんの一ヶ月前に第二次世界大戦が勃発したばっかりの頃なのです。
 そういった歴史的背景を考えると、この曲の最後の脳天気さがそのギャップ故に逆に不気味にすら思えてきます。
 まあ、曲とは直接は何の関係もないのですが、少し驚いたもので……(汗)(2002/7/12)