D.ショスタコーヴィチ 交響曲第5番 ニ短調

指揮アルトゥール・ロジンスキー
演奏ニューヨーク・フィルハーモニック交響楽団
カップリングショスタコーヴィチ 交響曲第8番 他
録音1946年2月24日
発売ARCHIPEL
CD番号ARPCD 0127


このCDを聴いた感想です。


 とても正常な精神の持ち主の演奏とは思えませんでした。

 第4楽章の冒頭を最初に聴いたときの話です。

 限界ギリギリの速いテンポに脳天から血が吹き出そうなぐらいの高いテンション。真っ先に頭に浮かんだのは『発狂』の二文字です。
 演奏者は、一瞬でも気を抜いたら即座に刺されそうなぐらいに必死に速いテンポに食らいついています。特にティンパニーやシロフォンなどの打楽器は、正しく命がけの危機感で、フォルテではここで楽器が壊れてしまっても構わないぐらいの勢いで鋭く叩きつけています。
 ほとんど恐怖感に近く、どの演奏者も尻に火がついたように自分の演奏で精一杯でとても周りに合わせるなんていう余裕はありません。いくらライブとはいえ、その緊迫感はあきらかに異常です。
 さらに怖いことに、これだけ演奏者全員がなりふり構わず自分の音だけに集中して、しかもライブのはずなのに、アンサンブルは驚くほど揃っているのです。
 いくら名のあるニューヨーク・フィルとはいえ、当時は若干低迷していた時期ですし、よくまあここまで揃っているものだと感心しました。よほどロジンスキーのまとめ方がうまかったのでしょうが、なんだか恐怖心で締め付けられていることでオーケストラが一つになったのではないかと思えてくるほどです。
 第4楽章の冒頭が最も強烈ですが、他の楽章もテンションが高いことでは変わりはありません。
 テンポこそそれほど速くは無いのですが、第1楽章冒頭の低弦と高弦の掛け合いから既に絶叫しているかのように全力投球ですし、第2楽章も最初の低弦の動きもねじ込むように鋭く緊張感が高く、そこからますます興奮していき、頂点ではほとんど狂騒状態です。というか、これでアンサンブルが乱れないのが本当に不思議です。
 第3楽章は、静かは静かなのですが、安らぎとか穏やかさとは無縁です。いかにピアノだろうとフォルテを無理やり抑えつけたかのように力が入っています。しかも、それがフォルテになった時には、一気に爆発してハイ終わりというあっさりしたものではなく、後から後からいくらでも力が湧き出てくるかのように延々と粘ります。
 これでトドメで第4楽章になるわけですから、よくまあそれだけ緊張感が長く、しかも後になればなるほど高めていけるものです。ほとんど呆れるほどです。
 ロジンスキーの同曲の演奏には、以前感想を書いた、クリーブランド管との演奏(1942年)ロイヤル・フィルとの演奏(1954年)がありますが、緊張感ではこのニューヨーク・フィル響との演奏が最も高いかもしれません。
 ただ、惜しいことに、この演奏はあまり録音が良くありません。
 終戦直後のライブですから、ある程度は覚悟していたことですが、フォルテで頻繁に音が割れるのにはまいりました。かなり聞くのに疲れます。
 ロイヤル・フィルとのスタジオ録音とは言うに及ばず、戦時中のクリーブランド管との録音と較べても、響き自体はこのニューヨーク・フィル響との録音の方が広く入っているにもかかわらず、音割れのためにむしろ聞き辛くなっています。

 ちなみに、他の録音にあった第4楽章の妙なカットは、この演奏でも健在(?)です。やはりロジンスキー自身によほどこだわりがあったのでしょうね。(2006/7/8)


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