C.サン=サーンス 交響詩「オンファールの糸車」

指揮ウィレム・メンゲルベルク
演奏ニューヨーク・フィルハーモニック交響楽団
録音1929年1月15日
発売及び
CD番号
Pearl(GEMM CD 9474)
BMGビクター(ORG 1011)


このCDを聴いた感想です。


 メンゲルベルクの二つある「オンファールの糸車」の録音のうち、新しい方の録音です。
 もっとも、新しいといっても1929年の録音ですが、なにせ前が1923年というまだ機械録音だった頃の録音でしたから、電気録音になったこともあって、音質は格段に鮮明になっています。
 さらに、音質以上に大きく違いが出ているのがテンポです。
 古い1923年の録音の感想にも書いたのですが、おそらく録音時間の制約で、1923年の方は中間部を中心にかなりカットを行なっています。
 新しい1929年の方では、楽譜をカットしていないだけではなく、テンポもゆったりとして、なにより余裕が感じられます。
 逆に、1923年の録音では、常に前へ前へと急かされているような感じがして余裕がありません。
 実際、例えば冒頭の部分では、楽譜には、最初の4小節間の音の動きは6連符で、第5小節目からは4連符で演奏するように書かれています。
 正確には少しずつアッチェルランド(加速)するよう指示があるので、冒頭の小節に較べると第5小節目の方がわずかに速いのですが、それでも6連符から4連符になれば、音の動きは普通は遅くなります。
 しかし、1923年の方は、4連符になったからといって音の動きは遅くなったりせず、まるで6連符の後ろ二つの音を取っ払ったみたいに、同じテンポのままで突き進んでいきます。
 なんだか少しでも空白ができるのを嫌がって、どんどん前に詰めているみたいです。
 それに較べると、1929年の方は、ちゃんと余裕を持って4連符になるとテンポが遅くなっていますし、そこからアレグロに向けてのテンポアップも自然です。
 クレッシェンドやディミヌエンドといった強弱の変化も大きく、彫りの深い演奏となっています。
 もっとも強弱の変化による表情は豊かでも、メロディー自体はポルタメントを入れたりして濃く歌ったりせず、割とあっさりと歌われているため、前半と後半に登場するオンファールのイメージも、色気でヘラクレスを魅了している妖しい女性みたいではなく、むしろ『可愛らしい』雰囲気があります。
 一方、中間部のヘラクレスの部分は、少し低音が弱いのですが、メロディーを長いスパンで歌わせてスケールの大きな音楽にしています。
 テンポがゆったりとしている分、巨大さや重量感がより強く感じられます。
 しかし、この1929年の録音には一点だけ不思議な点があります。
 ヘラクレスをイメージした中間部の音楽では、一定の間隔で入るシンバルが効果的なのに、1929年の録音からはシンバルが全く聞こえません。
 もちろん楽譜にも書いてありますし、そもそも1923年の古い録音の方では劣悪な録音条件にもかかわらずちゃんと入っているのに、なぜ1929年の録音の時には止めてしまったのか理由がさっぱり分かりません。
 無いものを加えるのならともかく、メンゲルベルクがわざわざ音楽の盛り上がりを落とすような変更をするとはとても思えませんし(笑)
 意外と単なる編集上のミスだったりしたら、これはこれで笑えるのですが。

 録音自体は、1929年という昔の録音で若干雑音が多いとはいえ、音の分離は良く、当時としてはなかなか良い方ではないでしょうか。
 一つだけ気になるのは、曲の最後、静かに終わっていく場面で、急に入ってくる雑音が、どうも自動車がアクセルを吹かした音に聞こえるという点でしょうかね(笑)(2004/3/27)


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