C.M.v.ウェーバー アリア「海よ、巨大な怪物よ」 〜歌劇「オベロン」より第2幕、No.12〜

指揮ウィレム・メンゲルベルク
独唱ソプラノ:ルース・ホルナ
演奏アムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団
録音1943年3月18日
発売及び
CD番号
AUDIOPHILE(APL 101.546)
キング(KICC 2056)
ARCHIVE DOCUMENTS(ADCD.109)


このCDを聴いた感想です。


 ウェーバーの歌劇「オベロン」は、序曲は演奏機会も多く、よく知られていますが、歌劇全曲ともなるとそれほど演奏頻度は高くはないでしょう。そのため、このアリア「海よ、巨大な怪物よ」も、歌劇の中では最も有名なアリアとはいえ、知らない方も結構いらっしゃるのではないかと思います。かくいうわたしも、メンゲルベルクの演奏で耳にするまで、恥ずかしながら存在すら知りませんでした。(なにぶん、歌曲系は本当に弱いもので(汗))
 そこで、演奏についての話の前に、アリアの内容について、ごくごく簡単に書いておきます。
 まずアリアが歌われる背景なのですが、歌劇全体の粗筋については、非常に長くなりますので省略させて頂いて、要するにこの場面は、ヒロインであるバグダッドの太守の娘のレツィア(ソプラノ)が、主人公である騎士のヒュオンと、海へと愛の逃避行をするのですが、途中で暴風雨に遭って難破します。そして、やっとのことで無人島にたどり着くのですが、今度はその島から脱出する方法がなく途方にくれる、という状況です。
 アリアは、その島で一夜明けた朝、広くどこまでも広がる大洋を目にしたレツィアが歌うもので、歌詞は、まず、二人を難破させた嵐みたいな、海が振るう強大な力と人間の無力さを歌います。ちなみにタイトルにもなっている「海よ、巨大な怪物よ」は冒頭の歌詞で、海の持つ力の強さを巨大な怪物に例えているわけです。
 次に、雰囲気は明るくなり、昨晩の嵐から打って変わって穏やかな現在の海と、そこに日の光が徐々に差し込んでくる朝の美しさを歌い上げます。
 しかし、いったん明るくなったのもつかの間、船が無く、故郷に帰るすべの無い現実が重くのしかかり、再び暗く悲しい雰囲気に戻ります。
 ところが、次の瞬間、水平線の彼方に一艘の船が姿を見せます。
 その船は、海岸で必死に布を振るレツィアに気づき、島に向かってきます。
 船が自分の合図に気づいてくれたことがわかったレツィアは狂喜乱舞し、岸から離れたところにいるヒュオンを声を嗄らして一所懸命呼び寄せる。
 これが、アリアの大まかな内容です。
 実は、劇自体はこのまま「めでたしめでたし」で終わりではなく、レツィアの合図に気がついて島に向かってきた船は、助けの船ではなく、なんと海賊船で、二人は拉致され、さらに苦労する羽目になるのですが、アリアでは、そんな未来が待ち受けているとは露知らず、幸福感にあふれているところが、よりいっそう悲しいところです。
 まあ、そういう風に次々と不幸に見舞われても、ちゃんと最後の最後では幸せになるらしいので一安心です。

 さて、演奏の方ですが、メンゲルベルクらしく(?)盛り上がりを重視したドラマチックなものです。
 アリアは大きく分けると、暗→明→暗→明という展開になりますが、雰囲気の切り替わり、特に暗から明に変わっていくところに非常に力を入れています。
 静かに切り替わるところはそれほど劇的な変化はないのですが、メロディーの頂点で切り替わる部分では、テンポを速めて行って気分を盛り上げておいて、頂点の直前で急にテンポを落としてエネルギーの密度を一気に濃くし、頂点でドカンと解き放ち大きく歌わせるので、劇的なことこの上ありません。
 なんだか、ハイドンの天地創造の「神は『光あれ』と言われた。すると光があった」のくだりを思い出させるような、暗から明への力強い変化があります。
 また、このアリアは、冒頭から水平線に船が現れる直前までは、割とゆっくりとしたテンポなのですが、船が現れる場面からテンポが一段階速くなり、スピード感が出てきます。
 メンゲルベルクは、この切り替えも速度にかなり差をつけていて、その上、遅い部分では、曲の盛り上がりに合わせて速くしたり遅くしたりとテンポを曲線的に大きく変化させていたのですが、船が現れる場面以降は、あまり極端には動かさず、速いテンポで直線的にどんどん前に突っ込んでいきます。
 船が一直線に、島に向かっている姿を表現しているのだと思うのですが、メンゲルベルクの演奏だと、あまりにもダイナミックで迫力がありすぎて、助けに来た船という感じがしません。
 海賊船というほど邪悪さはないのですが、正規の海軍に所属する完全武装の軍艦が、岸に乗り上げんばかりの勢いで突進してくるかのような雰囲気があります。

 ソロのルース・ホルナ(1899〜1983)は、この演奏でしか聴いたことがないのですが、メンゲルベルクが劇的に効果を上げているもの、この声あってのことです。
 フルオーケストラを向こうにまわしても全く引けをとらず、声の張りと力強さで、十分に対抗できるほどの存在感を示しています。
 特に、メロディーの頂点での伸ばしの音は、高い音でも音が痩せず、豊かな太い音であるため、バックのオーケストラを完全に圧倒しています。
 また逆に、低い音では、たぶんちょっと苦しいのでしょう、重量感のある音ではなく、喉から出したような横に広がった音で、響きは少ないのですが、感情が直接表に出てきたような感じがして、これはこれでなかなか味があります。(2003/11/1)


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