C.M.v.ウェーバー 歌劇「オベロン」序曲

指揮ウィレム・メンゲルベルク
演奏アムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団
録音1931年4月
発売及び
CD番号
Q DISC(97016)


このCD(DVD)を聴いた(視た)感想です。


 今回取り上げるオベロン序曲は、Q DISCよりDVDとして復刻された、珍しくメンゲルベルクが映像として残っている、貴重な3曲の中の一つです。
 録音等で、音源としては、それなりに残っているメンゲルベルクですが、映像となると同時代の指揮者と較べても非常に少なく、どんな指揮の仕方をしたのかや、オーケストラがどういう様子だったかは、3曲合計しても20分に満たないこの短い映像が唯一の手がかりです。
 そうなってくると、演奏の内容よりも、どうしても映像の方に注目が行ってしまうのも、まあしょうがないと言えるでしょう。
 ちなみに、他の2曲は、ビゼーのアルルの女より「アダージェット」と、ベルリオーズの「ハンガリー行進曲(ラコッツィ行進曲)」ですから、オベロン序曲が最も長い曲となります。

 さて、注目の映像ですが、まずは一番のメインとも言える、メンゲルベルクの指揮する様子です。
 一見して感じるのは、かなりテンポをきっちりと刻んでいるという点です。
 テンポを激しく動かすので、当たり前と言えば当たり前なんですが、音楽が曲線的なイメージが強いのに対して、棒の振り方はむしろ直線的で、打点をしっかりと決めた、誰が見てもすぐテンポがとれるようなわかりやすい指揮です。
 一拍一拍丁寧に刻んでいく指揮ぶりは、ほとんど無骨と言いたくなるほどで、例えば、現代のカルロス・クライバーのような流れるような華麗な指揮とは対極のようなものでしょう。
 さらに、これは他の2曲ではそれほどではなく、オベロン序曲に最も強く表れている特徴ですが、指揮の際の両手の使い方で、指揮棒を持つ右手の比重がかなり高いという事に気がつきました。
 まあ、もともとどの指揮者でも指揮棒を持つ右手の比重は高いものなのですが、メンゲルベルクの場合は、さらに高く、ニュアンスの変化や各奏者の出の合図等のほとんどの指示を指揮棒で出しています。
 特にテンポが関係してくる部分はほぼ100%右手を使っていて、左手は、一部の出の合図と、大まかな流れを何となく表す時に使われる程度で、ほぼサブ的な役割に留まっています。
 また、メンゲルベルクの指揮にはもう一つ面白い特徴があります。
 それは右手の指揮棒の持ち方です。
 多くの指揮者が指揮棒を持つ時には、手の延長という役割上、右腕と平行に近い角度で持つ場合が多いのですが(完全に並行ではありません)、メンゲルベルクの場合は、この持つ角度が、より直角に近い角度なのです。
 この持ち方で、曲の最後にフォルテで和音を伸ばしている部分なんかで、腕をサッと真上に向かって突き出すため、その腕の先から床と水平に真横に指揮棒が出ている様は、まるで和音を綺麗に均し揃えているみたいで、変なような合理的なような、なんだか面白い感じがします。

 さて、今度はオーケストラの方ですが、こちらも興味深い点がいくつもあります。
 いや、むしろ、メンゲルベルクの指揮よりも興味を惹かれる点が多いと言っても良いかもしれません。
 一番驚いたのは、各パートの並び方です。
 ただ、最初にお断りしておきますが、映像が撮られたホールは、一見コンセルトヘボウのようなのですが、実はフランスの某所に作られたセットとの事で、実際のコンセルトヘボウでの並び方とは異なっているかもしれないのですが、わざわざコンセルトヘボウに似せて作ってある点を考えると、おそらく本当のコンセルトヘボウでの並び方もほぼ同じであっただろう思います。
 まず、弦楽器の並び方ですが、現在の通常のオーケストラであれば、指揮者を中心として、放射状に、四方向に1stヴァイオリン(1stVn)からチェロ(Vc)までが、並んでいます。
 その並び方は、一般的には、左(下手)側から1stVn,2ndVn,Vla,Vc(ヴィオラとチェロは逆になる場合もあります)で、対向配置と呼ばれるストコフスキー以前の古い並び方だと左側から1stVn,Vc,Vla,2ndVnとなります(この並びは古楽器のオーケストラでよく採用されています)。それに加えて、残ったコントラバスは、大抵の場合、チェロパートのさらに奥に配置される事が多いようです。
 このどちらの並び方でも、指揮者に一番近い最前列は各パートから二人ずつ、計8人が並ぶ事になります。
 で、今度はコンセルトヘボウ管の場合ですが、メンゲルベルクの前には3パートしか並んでいません。
 もちろんストコフスキー以前ですから、左側に1stヴァイオリン、右側に2ndヴァイオリンと両翼がヴァイオリンなのですが、その間の真ん中にはヴィオラしかいません。
 チェロは、ヴィオラと2ndヴァイオリンの奥に位置していて、コントラバスに至っては、そのまたさらに奥へと追いやられています。
 ただ、最前列にはちゃんと8人座っています。
 3パートしかないのに8人座っているのはどういうことかと言いますと、実はヴィオラパートが4人も座っているからなんですよね〜(笑)  ついでに、これは並び方ではないのですが、コントラバスの弓の持ち方にもちょっと気がついた点がありました。
 知らない方も多いかと思いますので、少々注釈を加えますが、弦楽器奏者の弓の持ち方というのは、ヴァイオリンからチェロまでというのは、多少の差はあってもほぼ万国共通なのですが、コントラバスだけは、全く違う二種類の握り方があります。
 一つは他の弦楽器と同じように弓を上から握る握り方で、『フレンチボウ』と呼ばれ、フランスのオーケストラで一般的に採用されています。そしてもう一つが、他の弦楽器とは違い横から握る握り方で、こちらは『ジャーマンボウ』と呼ばれ、ドイツのオーケストラで一般的に採用されています。日本もほとんどがジャーマンボウが使われています。
 さて、現在のコンセルトヘボウ管では、実は全員フレンチボウを使っています。しかし、この映像ではフレンチボウとジャーマンボウが入り混じっていて、当時は両方使われていたというのはちょっと驚きました。
 現在でも、ロシアのオーケストラなんかでは両方入り混じっていますが、旧西側のオーケストラではあまり見た事がありませんでしたので。

 さて、お次は管楽器ですが、これも弦楽器以上に謎に満ちた並び方です。
 まず、木管楽器ですが、フルート、オーボエ、クラリネット、ファゴットの4パートは、ほとんどのオーケストラでは、順に、前列左、前列右、後列左、後列右という並び方です。
 この並び方はほぼ万国共通で、ごく一部の例外を除き、この並び方で並んでいると思って間違いありません。
 実は、ごく一部の例外というのは、現代のコンセルトヘボウ管がそうで、後列のクラリネットのファゴットの並び方が逆で、後列左にファゴット、右にクラリネットが並んでいます。これは他のオーケストラでは全く見た事がありません。
 話を、メンゲルベルク時代のコンセルトヘボウ管に戻しますが、この映像での並び方は、現代のコンセルトヘボウ管の並び方とも全く違っています。
 なんと、前列3パートで、後列1パートなのです。  前列の左から順に、フルート、オーボエ、クラリネットと並んでいて、ファゴットが、後列のちょうどオーボエの後ろ辺りにいるのです。
 しかも、各パートとも、本来の編成では二人のところを倍の四人にしているものですから、前列なんか木管だけで12名並ぶという、ある意味壮観な光景になっています(笑)
 ちなみに、後列の余ったスペースには金管が並んでいます。
 ファゴットの客席から見て右側、つまりクラリネットの後ろにはトランペット、ファゴットの左側、つまりフルートの後ろにはホルンが並んでいます。
 トロンボーンは、ホルンのまたさらに後ろに並んでいて、最後に、ティンパニーが、後方中央にデンと構えるという構図になります。
 弦楽器、管楽器とも、こういう並び方というのは、今まで見た事がありません。
 なんとも不思議な並び方です。

 不思議ついでにもう一点。
 映像が悪いので、今一つ確証が持てないのですが、トロンボーンが並んでいる左隣にチューバらしき物体を抱えた人が座っています。
 ところが、オベロン序曲という曲にはチューバパートなんて無いのです。
 抱えているだけで実際に吹いている映像が有ったわけでもありませんので、後の曲に出番があるので予め座っていたととれなくもないのですが、もしそうであれば重い楽器をわざわざ抱える必要は無く、脇に置いている筈です。
 もしかしたら、メンゲルベルクの事ですから、オリジナルの編成には無いチューバパートを増やしてサウンドを強化したのかな、とも思ってしまいます。

 さて、映像についてばかり書いて、音について全く書かないのも少し申し訳ないので、録音状況について、一言書いておきます。
 音自体は、1931年という年代を考えれば、結構生々しい方でしょう。
 ただ、音割れが酷く、さらに何箇所か音飛びをしているのが、何とも残念です。(2002/11/22)