C.H.パリー 「イェルサレム」

指揮ポール・ダニエル
演奏イギリス・ノーザン・フィルハーモニア
リーズ・フェスティヴァル・コーラス
録音1996年7月7日、10月25日
カップリングウォルトン 戴冠式行進曲「王冠」 他
「プロムス・ラストナイトの定番曲集」の一部
発売NAXOS
CD番号8.553981


このCDを聴いた感想です。


 原曲はオーケストラではなくオルガンだけが伴奏ですが、プロムスの最終夜に演奏されるのが定番になったこともあり、今となってはエルガーが編曲したオーケストラによる伴奏の版の方が知られているのではないでしょうか。
 わたし自身そのオーケストラ版の方がなじみがあり、プロムスのライブ録音や、このCDのようにプロムスで演奏される曲を集めた企画CDを愛聴していました。
 そんな折、そのオーケストラ版の総譜が出版されていることを知ったのです。
 これはもうぜひ手に入れるしかない、と思い、あちこちの店を回ってみたのですが店頭には無く、ついには注文までして一ヶ月以上も時間をかけてやっとのことで手に入れました。
 その日帰宅して、早速手持ちのプロムスのCDをかけて聴いたみたのですが、どうも楽譜と演奏が今一つ噛み合っていません。小節数自体は合っているものの、耳に聞こえてくる音が総譜には無かったりと、あちこちに食い違いがあるのです。
 どうやらこの総譜は、オーケストラ版ではあっても、一般的に演奏されるエルガー編のものではなく、別の人が編曲した版のようなのです。たしかに総譜のどこを見ても、エルガーなんて単語はどこにも出てきません。では一体誰が編曲したものかというと、それすら何も書いてないのですが……
 結局、イェルサレムのオーケストラ版には『エルガー版』とこの総譜の版(編曲者の名前が無いので、出版者の名前をとって仮に『カルマス(Kalmus)版』としておきます)の二つがあることがわかりました。
 とはいえ、世の中に出回っているオーケストラ版の演奏は、ほとんどがエルガー版で、特にプロムスの実演はほぼ間違いなくエルガー版が使われているようです。だからこそエルガー版の方が一般的になったのかもしれませんが。
 わたしの手元にはオーケストラ版の演奏が10種類程度ありますが、内8種類がエルガー版で、カルマス版を使っているのは、たった2種類しかありません。その一つは、なぜかロックバンドのオアシスのボーカルであるリアム・ギャラガーが最近のアーティストの中で唯一認めたソプラノ歌手、シャルロット・チャーチのアルバムの一曲で(当然歌っているのは合唱ではなくチャーチのソロ)、もう一つが、今回取り上げたハーディングのものです。NAXOSの「プロムス・ラストナイトの定番曲集」の一曲で、合唱が歌っているのはこの演奏だけです。

 一種類の版しか聞いたことがない方が、その演奏がどちらの版を使っているか知りたい場合、まあ、たいていの場合はエルガー版なのですが(特にプロムスの場合はほぼ間違いないでしょう)、一応、見分けるポイントがいくつかあります。
 全体的にエルガー版の方が派手ですが、細かい部分では、まず冒頭です。
 ハープが盛大に出てくるようならまずエルガー版です。カルマス版にはそもそも編成上ハープは含まれていません。
 もっとも、ハープが入っていても録音の関係であまり聞こえないこともありますし、逆にカルマス版にハープを付け足している可能性も無いとはいえません。
 次にポイントなるのが、1番から2番へと移る際の3小節間の短い間奏の部分です。
 メロディーは3小節目の頭が頂点で、カルマス版はオーケストラ全体としてもそこを頂点にして2番の歌詞が入る部分へと次第に落ち着いて行きます。しかしエルガー版は、2番に入る直前の付点のリズムがティンパニー付きで強調されていてそこが間奏で一番盛り上がる部分になっています。
 さらに2番に入ってから、歌詞が「Bring me my arrows of desire」から次の「Bring me my spear」へと移る間に、ヴァイオリンに円を描きながらも勢い良く駆け上っていく動きがあれば間違いありません。それはエルガー版です。
 あと、エルガー版ではオルガンが入ることも多いようです。

 上記の違いからも、少し想像つくと思いますが、全体的にエルガー版の方が華やかです。
 原曲に無かった細かい動きや合いの手が多く加わり、情熱的でよりドラマチックと言っても良いかもしれません。
 エルガー版をロマン派的としたら、カルマス版は古典派的というところでしょうか。エルガー版に較べてカルマス版の方はここぞという部分での派手な盛り上げが無く、大人し目に聞こえます。
 ただ、原曲のオルガン伴奏の雰囲気に近いのはカルマス版の方です。
 コラールのような和音の動きによる伴奏で、賛美歌の雰囲気に近く、エルガー版の興奮はありませんが、祈るような真摯な気持ちになってきます。
 考えてみれば、そういう雰囲気があのプロムスの熱気ムンムンの最終夜には全然合うわけがなく、エルガー版が使われているは非常に理に適っているというわけですね。

 ハーディングの演奏も、原曲の雰囲気を生かし、あまり力強さを表に出さない清々しいものです。
 盛り上がる頂点でも、ドカンと大きくぶつけてインパクトを出すのではなく、重みと響きの厚さで盛り上げており、あくまでも穏やかな雰囲気は崩しません。
 それなのに、間奏部分の頂点と最後の2箇所に、楽譜に無い、それどころかエルガー版にすらないシンバルを入れているのが不思議です。雰囲気を壊すというほどでもないので悪いわけではありませんが、やはり頂点だけはここ一発のインパクトが欲しかったのか、いろいろ想像したくなってきます。(2005/11/5)


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