C.ドビュッシー 牧神の午後への前奏曲

指揮ジャン=ピエール・ジャキャ
独奏フルート:ミシェル・デボスト
演奏パリ管弦楽団
録音1968年5月13、6月17・18日
カップリングラ・マルセイエーズ 他
発売東芝EMI
CD番号TOCE-7273


このCDを聴いた感想です。


 色彩がくっきりと鮮やかに描かれている演奏です。
 オーケストラの音色、録音などいろいろな要素が絡んだ結果なのでしょうが、なぜか他の演奏にくらべて色合いがはっきりと出ています。まるでテレビのハイビジョン放送を見ているように、色彩が滲むことなく細部まで色がしっかりと締まって聞こえてきます。
 演奏しているのは、設立されてまだ2年目、初代の首席指揮者のミュンシュが亡くなる直前のパリ管です。音色は、前身のパリ音楽院管の頃よりフランス色がだいぶ薄れたとは言われていますが、ビブラートの利いた漂うような音色はやはりいかにもフランスといった感じがします。
 しかし、音色以上にフランスらしさを感じさせたのがその歌い方です。
 やわらかい風のようにフワッと軽く、重さを感じさせず流れていきます。それでいて、フレーズの最初から最後までが大きく一つの流れになっていて、しっかりとした起伏がついています。そのバランスがまた絶妙で、二つの要素がお互いに邪魔することなく逆にきれいに一体になることでそれぞれの特徴がさらに際立っているのです。
 その雰囲気は、まさに神話をテーマとした「牧神の午後」の絵の通り、現実を消し去った幻想的なもので、なんだか遠くの花畑から漂ってきたかすかな甘い匂いがさらっと薫ってくるような気までしてきます。
 しかも、この幻想的な雰囲気は、自分から遠く離れたところにあるぼんやりとしたものではなく、最初に書いたようにくっきり鮮やかにまるで手を伸ばせばすぐ届く目の前にあるように感じられるのです。印象派の曲としては、むしろぼんやりとしたパステル調の雰囲気の方が曲を的確に表しているのかもしれませんが、わたしはこちらの幻想的でありながら鮮やかな色彩の方に強く惹かれます。
 実を言えば、幻想的な薄く漂う音色であれば、この演奏だけではなくパリ音楽院管やコンセール・コロンヌ管といったフランスのオーケストラを中心に、そういう音色による演奏は少なくありません。特に響きの薄さでいえば、このジャキャとパリ管以上に、フランスらしい薄さを感じられるものもあります。しかし、その幻想的な雰囲気が、ありありと見えるのはこの演奏なのです。
 録音されたのは1968年ですから、さすがにモノラルの頃のような聞くのに覚悟のいるような音ではありませんが、それでも最新録音にはほど遠いはずなのに、なぜそんなに色彩がくっきりと聞こえるのかはちょっと不思議なところです。同じEMIの録音にしても、1960年のデルヴォーの録音や1973年のマルティノンの録音では、そこまでくっきりとは聞こえません。
 やはり当時のパリ管の実力とそれをきれいに引き出して見せたジャキャの力ということなのでしょう。
 ちなみに、指揮をしているジャキャは、1935年にヴェルサイユで生まれて、パリ管設立時にはミュンシュの下で副指揮者をしていました。その後、ラムルー管の指揮者やアイスランド響の首席指揮者などを務めましたが、1986年に自動車事故で亡くなったとのことです。録音も少なく、残念ながら現在ではほとんど名前が知られていないようです。(2008/12/20)


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