指揮 | ウィレム・メンゲルベルク |
演奏 | アムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団 |
録音 | 1938年11月30日 |
発売及び CD番号 | BIDDULPH(WHL 023) ARCHIVE DOCUMENTS(ADCD.107) オーパス蔵(OPK 2027) |
なんだか妙に人間臭い雰囲気がするところが面白い演奏です。 そもそもこの曲は、牧神という半獣の神がテーマになっているところといい、午後の物憂い雰囲気を表しているところといい、かなり幻想的な世界が表現されていて、色彩的にも淡いイメージが強い曲なのですが、この演奏は、幻想的というよりも、むしろワーグナーかなにかのようなドロドロした粘り気を強く感じます。 この曲の幻想的な雰囲気を作り出している要素の中でも大きいのが、半音階を中心としたメロディーと、和声の神秘的な移り変わりなのですが、和声の方は、古い録音という事もあって、かなり引っ込み気味で細かいニュアンスがあまり伝わってきません。しかもどちらかというとメロディーの方が強調されているため、そちらの印象の方が強くなり、和声が移り変わっても、あまり雰囲気が変わったような気にならないのです。 一方、強調されているメロディーですが、これがこの演奏を人間臭く感じさせる一番大きな要因です。 とにかくビブラートやポルタメントがふんだんに使われ、必要以上に歌い込まれています。 そのため、およそ牧神の午後への前奏曲とは思えないぐらい、山あり谷ありとドラマチックで盛り上がりのある音楽になっています。 さらに、音色も楽器の色を思いっきり前面に出していて、淡い雰囲気どころか、原色バリバリのベタッとした色使いを連想させるような濃さがあり、派手といってもいいぐらいの華やかな雰囲気です。 このように、他の演奏では聴く事が出来ない面白さがあるこの演奏ですが、実は、全体としては、意外にきっちりとまとまっているという印象を受ける演奏でもあるのです。 音色が原色のようなハッキリとした音という事もあり、フレーズとフレーズとの切り替わりが明確で、フレーズ毎の音楽が一まとまりにされて、それが次から次へと順序良くつながっていくような感じがしてきます。 もともとこの曲は、小節としての単位が希薄で、あまり縦の線をきちんと合わせたりするような曲ではないのに、メンゲルベルクの演奏は、音楽がまとめられてそれが順序良く並べられているため、かえって小節の縦の線が強調され、音楽が整然としている……いや、整然とし過ぎているような印象を受けるのです。 そう、要するにフランス音楽というより、やはりドイツ音楽っぽいんですね。 まあ、メンゲルベルクは何を演奏してもメンゲルベルクという感じがして、わたしはそういうところが好きなんですが(笑) この演奏のCDは、わたしの持っているものでも、BIDDULPHとARCHIVE DOCUMENTSとオーパス蔵の三種類があり、どれも一長一短があるのですが、聴いた限りでは、オーパス蔵の復刻が、音の生々しさと雑音の量という点で最も条件が良いのではないかと思います。(2002/8/2) |