C.A.フランク 交響曲 ニ短調

指揮グィド・カンテルリ
演奏NBC交響楽団
録音1954年4月6日
カップリングハイドン 交響曲第93番 他
発売TESTAMENT
CD番号SBT 2194


このCDを聴いた感想です。


 この録音は、演奏もさることながら、レコード史上での希少性の高さが際立っています。
 つまり珍しい録音なのです。
 といっても、もちろん曲が珍しいわけではありません。フランクの交響曲なんてメジャーなレパートリーです。
『NBC交響楽団』の『ステレオ録音』という点が珍しいのです。
 NBC交響楽団は、トスカニーニの棒の下、当時世界最強と謳われたオーケストラですが、トスカニーニの引退によりスポンサーのNBCが手を引いてしまい、自主運営団体『シンフォニー・オブ・ジ・エア』として再出発を余儀なくされました。
 ちなみに、このシンフォニー・オブ・ジ・エア自体も、資金等の問題で行き詰まり、1963年には解散してしまい、今となっては完全に失われたオーケストラになってしまいました。
 話を元に戻しますが、つまり、NBC響がNBC響であったのは、トスカニーニが引退するまで。その時期は1954年の4月なのです。
 この1954年という時期は、本格的なステレオ録音の黎明期にあたります。
 実験的なステレオ録音は、戦時中からあるにはあったのですが、あくまでも実験の域を出ず、商業ベースにかかり始めたのは1954年頃からになります。
 しかし、商業ベースといっても、まだまだ一部のレコード会社のそのまた一部の録音のみに過ぎませんでした。
 そして、いざ本格的にステレオ録音が始まろうとした矢先……NBC響は無くなってしまったのです。
 結果、NBC響の17年間にも及ぶ膨大な録音のほとんど全てはモノラルでしか残されていません。
 その中で、たった二つだけステレオに間に合った録音がありました。
 一つが、トスカニーニの最後のコンサートとなった、ワーグナー集。
 もう一つが、その二日後に行なわれた当録音なのです。
 トスカニーニのラストコンサートは、おそらくライブでしょうから、スタジオ録音としては、唯一のステレオ録音ということになるのではないでしょうか。
 ただ、わたしも専門の研究者ではありませんので、もしかしたら、わたしの知らない別の録音もあるのかもしれませんが、少なくとも一般には流布していないと思います。
 NBC響がシンフォニー・オブ・ジ・エアとなって以降は、年代も年代ですからステレオ録音もそれなりに残されていますし、メンバーもほぼ引き継いでいるのですから、NBC響と変らないじゃないか、という話もありますが、一応、天下の『NBC響』を名乗ってでの録音という点が貴重という事で(笑)

 実はこの録音の希少性はもう一つあります。
 それは、『カンテルリ』のステレオ録音という点です。
 NBC響のステレオ録音というほどの希少性ではありませんが、カンテルリは、1956年11月に飛行機事故で亡くなっており、36歳という若さという事もあって、録音自体そんなに多く残されていません。(当時の同年代の指揮者の中では最も多い方ではありますが)
 ましてやステレオ録音ともなりますと、死によって途切れた途中までの録音を含めても7種類ぐらいしかありません。その中の一枚ですから、これも貴重なものといって良いでしょう。


 以上、録音の希少性について長々と書きましたが、だからといって単なる珍品ではありません。
 録音の希少性を抜きにして演奏だけでも十分に聴き応えのある演奏です。
 この演奏を聴いた時にまず感じたのが、涼風のようなさわやかさです。
 例えば、テンポはほとんど動かさずほぼ一定なのですが、杓子定規に無理に一定にしたような固さが無く、柔軟性があり音楽がのびのびとしています。
 特に、高音での長い伸ばしの音の伸びは素晴らしく、よく歌い込まれている上にスピードもあるため、まるで空に向かってどこまでも飛んで行きそうな気がしてきます。
 さらに、熱気を前面に押し出さず、むしろクールに音を響かせて、風通しの良い、抜けるような響きを作り出しています。
 もちろん、柔らかい涼風のような雰囲気だからといって、足が地につかないようなフワフワした頼りない演奏ではありません。
 ここぞという決める場所では、ちゃんと固く締まった音ですし、それに、何よりも音にパワーが感じられます。
 フォルテであろうとピアノであろうと、芯の通った、確固たる存在感のある音なのです。
 しかも、パワーがあるといっても、ギラギラした荒っぽい音ではありません。
 カンテルリは、無理に力ませないようにして、音のキレの良さを保つと共に、響きを上手くまとめています。(2003/2/23)


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