B.A.チャイコフスキー テーマと8つの変奏曲

指揮ウラディミール・フェドセーエフ
演奏モスクワ放送交響楽団
録音1993年8月29〜31日
カップリングムソルグスキー 組曲「展覧会の絵」
発売ポニーキャニオン
CD番号PCCL-00580


このCDを聴いた感想です。


 チャイコフスキーはチャイコフスキーでも著名なピョートル・イリイチの方ではなく、20世紀のソ連の作曲家、ボリス・アレクサンドロヴィッチ・チャイコフスキーの曲です。
 このチャイコフスキーもロシア国内では有名らしいのですが、日本での知名度は低く、CDも、ピョートルの方はそれこそ聞いても聞いても聞ききれないくらい発売されているのに対して、ボリスはそれこそ多くても10種類ぐらい。週末の休みにでもちょっと頑張れば十分に全部聞き終えられるぐらいです。国内盤に至っては、この一枚以外にあったっけ? というお寒い状態です。
 しかも、このおそらく唯一と思われるこの国内盤に収録されている曲も、CDのメインになるような交響曲とかではなく、ムソルグルスキーの「展覧会の絵」におまけ程度にくっついているようなものですし。
 ただ、演奏時間はそれほど短い曲ではなく、17分程度はかかりますし、編成もかなり大きそうな管弦楽曲です。
 曲名が「テーマと8つの変奏曲」ですから、当然初めに主題が提示されて、それが8パターンに変奏される変奏曲のはずですが、今一つつかみ所がありません。
 たしかに、音楽が途中途中で大きく変わります。それぞれの音楽はかなりはっきりとした境目があり、ちゃんと数えてはいませんがおそらく全部で8パターンあり、それが変奏なのでしょう。そういう点ではまことに変奏曲らしい曲です。
 しかし、肝心の基となるテーマが、なんだか曖昧模糊としています。
 たぶん冒頭に登場する音楽がテーマだと思うのですが、これがまたメロディーらしいメロディーがありません。
 ヴァイオリンの薄く弱い音による単音がポツリポツリと雨だれのように登場してくるだけなのです。
 音同士に何かのつながりがあるようにはとても聞こえず、まるで無作為にポロッポロッと並べただけのように聞こえます。
 音の移り変わりは、時に離れ、時に重なり、その合間に、弦による和音が薄っすらと被さるぐらいで、なんだかフワフワと頼りなく、「テーマ」らしいこれだという確固たる柱がありません。
 全てが霧の中のようで、完全に幻想の世界に入っています。
 むしろ、変奏に入ってからのほうが明確です。
 テンポやリズムがはっきりとしていて現実感があります。
 しかし、テーマがテーマだけに、変奏に入ってからもあまりメロディーらしいメロディーが感じられないのです。
 たしかに明快な動きはあり、音同士の横のつながりも冒頭のテーマに較べたら、よほど順当です。
 しかし、どの動きも、どうも伴奏に聞こえます。よくて主旋律に対する対旋律といったところでしょうか。
 まるで、中心となるメロディー無しで、ずっと伴奏だけで音楽が進んでいるように聞こえます。
 おそらく動きに同じリズムなどの似たような繰り返しが多く、一つの変奏の中での変化が少ないからそういう印象を受けるのでしょう。
 ずっと何かが欠けた不安定な状態で進んでいるようで、なんだか妙な雰囲気が印象に残りますし、不安定なところが逆に緊張感を生み出しています。
 さらに、明快な伴奏も、変奏によって大きく姿を変えています。
 弦楽器を弓の背中側で弦を叩くコル・レーニョによる蠢くような弱い動きから、分散和音を力強く演奏する明るいもの、さらには鐘まで登場する劇的な暗く激しい響き、はては、音の高さが変わらず一定のリズムの動きを、いろいろな楽器が叫ぶようにフォルテで交互に演奏する、まるで宗教のお題目を唱えているような音楽まで、幅広く変化しています。
 人間の世界からは手の届かない夢の世界のような雰囲気がありながら、緊張感は高く明快でもある、その響きは他ではあまり聴いたことが無く、とても魅力的でした。
 こういう曲を聴くと、こっちのボリス・チャイコフスキーの曲もどんどんCDになって欲しいものだとしみじみ感じます。(2006/12/2)


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