A.ヴァレリウス Niederlandisches Dankgebet

J.ワーヘナール 編曲

指揮ウィレム・メンゲルベルク
演奏アムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団
録音1938年11月30日
販売及び
CD番号
AUDIOPHILE(APL101.541)
TELDEC(243 723-2)


このCDを聴いた感想です。


 作曲者のヴァレリウスは、わたしとっては長い間どんな作曲家なのか全くわかりませんでした。
 曲が収録されているCDのリーフレットを読んでみても、他の作曲家については何がしかの記述があるのに、ヴァレリウスについての記述だけ全く無く、生没年すら記されていません。
 CDのタイトル自体が『オランダ作曲家集』で、ヴァレリウス以外の作曲家が、だいたい19世紀から20世紀にかけて活躍した人物ばかりだったので、ヴァレリウスもおそらく他の作曲家達と似たような年代で、生没年が書いてないのも何らかの事情で不明なだけだろうと、見当をつけていました。
 ところが、いろいろ調べてみて、本日初めて知ったのですが、ヴァレリウスは19世紀や20世紀の作曲家では全く無く、実は16世紀後半から17世紀前半にかけての人物で、正確には生年1575年−没年1625年で、モンテヴェルディ(1567-1643)とほぼ同世代だったのです。
 ということは、ヴィヴァルディよりもよっぽど古く、メンゲルベルクが録音を残した作曲家の中で、最も昔の人物という事になります。(正確には、レントゲンの「六つの古いオランダの舞曲」の原曲を書いたスザートの方が昔の作曲家なのですが、一応作曲者名としてはレントゲン名義になっているということで除外します)

 メンゲルベルクが録音した、この「Niederlandisches Dankgebet」という曲(日本語に訳すと「オランダの感謝の祈り」ぐらいでしょうか?)も、ワーヘナールによる編曲という事は、当然、元々は違う編成であったはずで、おそらくリュート辺りによる器楽曲ではなかったのでしょうか。
 長さ自体は、2分弱ととても短い曲ですが、穏やかで明るく、それに加えてゆったりとした遅いテンポの三拍子の曲で、全体の雰囲気としては、ヘンデルの有名なラルゴ(歌劇「クセルクセス」のオンブラ・マイ・フ)にそっくりです。
 ただ、ヘンデルのラルゴと較べて、劇的な盛り上がりや哀愁といった面には欠けています。その代わり、ヴァレリウスの方が、より暖かみがあり、どっしりとした安心感と、くつろいだ雰囲気があります。
 ワーヘナールの編曲は、曲をかなり大掛かりな編成向けに変えています。
 パーカッションこそ出てこないものの、管楽器は推定ですが、木管のみならず金管、それもチューバまで入っていて、おまけに最後にはハープまで出てきます。
 ほとんどフル編成といってよいでしょう。
 といっても、このフル編成は、曲の最初から最後までフルに出番があるというわけではありません。
 曲の冒頭は、逆に非常に繊細で、まるで弦楽四重奏で演奏しているかのような小規模な弦楽合奏で始まり、曲が進むにつれて、じわじわと楽器が増えて行き、曲が終わる直前に急に楽器が増え、一気に曲を盛り上げて、余韻を残したまま終わらせているのです。
 しかし、実は、こういう音楽の盛り上げ方までヘンデルのラルゴと良く似ているのです。
 ヘンデルのラルゴという曲は、歌が入ったりオーケストラだったりと色々編曲があるのですが、その中でも以前に感想を書いた、カンテルリが指揮した演奏のものとは、最初は小規模な編成で始まり、次第に楽器が増えていって、最後でパァッと盛り上げるという点までそっくりで、別にどちらかが真似をしたわけではないと思いますが、ここまで展開が似ていると、思わず笑ってしまいました。
 一方、演奏の方は、録音が古いため、楽器が増えていく効果がわかりづらいのですが、冒頭の小規模の弦楽合奏の部分なんかは録音によるハンデをあまり受けていないため、メンゲルベルクの丹精込めた細やかな音楽作りが非常に良くわかります。
 濃厚に歌わせているのですが、くどさや下品な雰囲気が無く、まるで上等な珈琲を前にしたような、豊かなのに上品で、さらに芯がしっかりとした香りが感じられます。(2002/9/13)