A.ヴィヴァルディ ヴァイオリン協奏曲op.8 第1〜4番 <四季>

指揮クラウディオ・シモーネ
独奏Vn:ピエロ・トーゾ
演奏イ・ソリスティ・ヴェネティ
録音1982年4月
発売ERATO
CD番号ECD 88003


このCDを聴いた感想です。


 テンポや表現が自由奔放なこの演奏ですが、中でも最も個性的なのが第1番の「春」です。
 冒頭からして驚かされました。
 わたしの今までのイメージでは、「春」の冒頭といえば、大編成や小編成の違いはあっても、春が来た喜びを全身で表したような力強い演奏で始まるものと思っていました。実際、強弱記号もしっかりと『f』(フォルテ)が書いてあります。
 ところが、この演奏は、アタックなんて全く無いような、柔らかいピアノで始めているのです。
 例えるなら、新緑の野原をそよぐそよ風といったところでしょうか。
 限りなく柔らかく、頬には確かに優しい感触を感じる事ができるのに、目には見えず、手で捕らえようとしてもスッと指の間からすり抜けて行くような捉え所の無さがあります。
 それに加えて、テンポも自由気ままな風そのままにフワフワと揺れ動いています。
 さらに、一つのメロディーが終って次のメロディーに移る時に、ちょっと空白が開いて一瞬音楽が止まり、改めて次のメロディーが始まっているところなんか、まさしく吹いては止む風そのものといったところです。
 第2楽章でも、楽譜上はヴィオラが犬の吠える様を模していて、他のパートより際立って強く演奏するように指定されているのですが、この演奏ではピアノで控え目に演奏されています。
 これでは、眠っている羊飼いの代わりに番をするどころか、まるで一緒に眠りこけてしまったみたいですね。
 第3楽章のニンフと牧童が楽しく踊っている場面なんかは、あまりにも柔らかく演奏されているため、楽しいというよりも優雅で高貴な印象を受けます。別にテンポが際立って遅かったり、動きに乏しいわけでもないのですが、なぜかゆったりとした貴族的な舞を連想させます。

 全編を通して自由奔放とはいうものの、第2〜4番の「夏」「秋」「冬」は、「春」ほどに強烈に個性的ではありません。
 それでも部分的には強く印象に残った部分があります。

 例えば、「夏」では、第1楽章の暑さに疲れた感じを表現したピアノの部分では、楽譜上では全員休符のところにオルガンによる合いの手を入れている点が、響きを新鮮にしています。
 また、第2楽章のヴァイオリン・ソロは、アドリブの装飾を多く取り入れ、いろいろと変化をつけています。

 「秋」では、メロディーの微妙な七変化に驚かされました。
 第1楽章は、冒頭の「ミミミファミーミファ(ヘ長調の音階による表記です)」というメロディーが何度も繰り返し出てくるのですが、そのメロディーの一つ一つの音の硬さや長さにいろいろなバリエーションをつけているのです。
 アタックが硬かったり柔らかかったり、スタッカートの時もあれば逆にテヌートだったり、あるいはその中間の事もあります。
 となると、統一性が無くてバラバラではないのかと思われるかもしれませんが、統一性はあります。
 それはテンポです。
 このメロディーが出てくる時には、常に同じテンポなのです。
 しかもその常に同じテンポという点が際立ってくるのは、実はこのメロディーの部分とそれ以外の部分のテンポが大きく違っているからです。
 メインのメロディー以外の時のテンポは、遅めでしかも大きく伸び縮みしているのですが、メインのメロディーになったとたん、何事も無かったように速めで一定のテンポに戻るため、メインのメロディー同士はちゃんと共通した印象を受けるのです。
 このメインのメロディーとそれ以外の部分のテンポが違うというパターンは、第3楽章も同じです。
 ただこちらは、第1楽章と逆に、他が速くてメインのメロディーの方が遅いテンポです。
 しかも、このメインのメロディーは、音型もあるのでしょうが、毎小節の頭にアクセントが置かれていて、妙にどっしりと重く演奏されています。

 「冬」は、有名な第2楽章のラルゴが印象に残りました。
 メロディーを演奏する、ソロ・ヴァイオリンの暖かくかつ流れるような滑らかな歌わせ方も良いのですが、実はより一層気を引かれたのは1st,2ndヴァイオリンのピチカートによる伴奏です。
 どういう奏法なのか、はたまた録音によるものなのかはわかりませんが、これがまた木の香り漂う暖かで実に素朴な音色なのです。
 それが、ソロ・ヴァイオリンのメロディーと良く合い、正に暖かい暖炉の傍でぬくぬくしている雰囲気が感じられます。もし、このピチカートの音が雨音だとしても、冬特有の冷たい雨ではなく、きっと春雨のような暖かい雨なんでしょう。

 個性的ということもありますが、それに加えてピアノの柔らかさに心を引かれた演奏です(2003/2/8)


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