A.スクリャービン 交響曲第5番<プロメテウス:火の詩>

指揮リッカルド・ムーティ
独奏ドミトリー・アレクセーエフ
演奏フィラデルフィア管弦楽団
フィラデルフィア芸術協会合唱団
録音1990年4月
カップリングスクリャービン 交響曲第1番
スクリャービン交響曲全集の一部
発売EMI
CD番号7243 5 67720 2 1


このCDを聴いた感想です。


 小学校や中学校の頃、よく音楽室には作曲家の年表が貼られていて、例えばバロックはいつの時代で、いつ頃古典派が始まったとか、ベートーヴェンは古典派とロマン派の両方にかけて活躍した作曲家といった事が書かれてありました。
 その年表も、19世紀以降に入ると、国民楽派や新ウィーン派といった細かい派がぞろぞろ出てくるのですが、その中でも『神秘主義』という文字には一際独自の輝きを感じました。
 小中学生の頃というのは、ちょうどそういう神秘的なものにあこがれを感じた頃で、神秘主義と呼ばれるような音楽とは一体どんなに凄い音楽なのか、想像するだけでワクワクしたものです。
 そして、スクリャービンという名前は、その神秘主義に該当する唯一人の作曲家として強く印象付けられていました。
 その後何年も経ち、いいかげん大人になってから、初めてスクリャービンの音楽を聴く事が出来たのですが、子供の頃あれこれ想像した『神秘主義』の音楽は、想像通りであり、想像以上でもありました。
 一つ一つの和音は、子供の頃想像した通りでした。しかし、それがどう繋がってどういう音楽になって行くかという点は、全く想像していなかったのです。
 ただ、「なるほど、これが『神秘主義』なんだな」と納得できるだけの雰囲気はたしかに感じられました。

 さて、そのスクリャービンの最後の交響曲(?)の<プロメテウス:火の詩>ですが、改めて聴き直してみると……やっぱり、変わった曲ですね、これ。
 和音は、神秘主義特有の締め付けられるような4度和音ですし、いくつか登場するメロディーも雰囲気を保つためにほぼ同じような傾向の音型ですし、しかもたった一小節か二小節ぐらいの非常に短いもので、それが幾度と無く繰り返されたり、モザイクのようにそこかしこに嵌め込んであります。
 たまに、長いメロディーが出てきたなー と思っても、良く見ると元々は一小節内で演奏される短いメロディーを、二倍や三倍にも一つの音の長さを引き伸ばして、何小節にも跨らせているだけだったりします。
 さらに強烈なのが編成で、基本が四管編成(木管の各パートの人数が4人の編成の事。ブラームスやメンデルスゾーン辺りまでは二管が通常でした)である上に、金管は、ホルン8本、トランペット5本、トロンボーン3本、チューバ1本と、ストラヴィンスキーの「春の祭典」並みの人数で、これに加え、ソリストのピアノは別格としても、打楽器に、トライアングル、シンバル、大太鼓、銅鑼、鐘、さらには2台のハープとチェレスタ、おまけにオルガンまで入り、トドメに混声四部合唱まで登場するという、「これだけの人数がいて、コンサートホールで本当にステージに収まりきれるのだろうか?」と心配をしたくなるような、とんでもない大所帯です。
 しかし、この曲の真に凄い点は、上記の編成にさらに加わる一つの楽器にあります。
 その名も『カラーオルガン』!(あるいは「色光ピアノ」とも呼ばれる)
 聴き慣れないこの楽器は、イギリスのレミントンという人が発明したそうで、このオルガンの鍵盤を押すと、その音に対応する色の光がホール内を満たし、音が変わるたびに次々と色が変わって行くという、想像するだけで楽しくなってくるような楽器です。
 スコアにも、別格で最上段に書いてあり、最初から最後まで常に音を出し続けている(言い換えれば、常に光を発し続けている)のですが、いかんせんあまりにも特殊楽器過ぎて、クーセヴィツキーによりモスクワで初演された時にはカットされてしまい、現在でも多くの場合はカットされてしまっているそうです。
 このムーティの演奏でも、おそらくカットされていると思います。
 それらしい音は聞こえて来ませんし、なによりCDでは、いくら発光しようとも聴いている方にとっては、全くわかりませんしね(笑)
 ただ、いつかは実演で、実際に光っているところを見てみたいものです。

 さて、演奏の方ですが、ムーティの演奏は、音の変わり目を明確につけ、細かい動きまで光を当てたクリアな演奏です。
 さらに、メロディーを少し強調することで、流れを掴みやすくなり、こういう音楽に馴染みが無い人にとっても、取っ付き易く感じられると思います。
 一方、あまりにも鮮明に描き過ぎて、全てが白日の下にさらされてしまい、霧のような神秘的な雰囲気はかなり薄まっているという点もたしかにあります。
 とはいえ、クリアで取っ付き易いというのは大きく、作品を理解するにはこういう演奏が丁度良いのではないかと思います。(2002/9/27)