A.スクリャービン ピアノ協奏曲 嬰へ短調

指揮ゲンナジー・ロジェストヴェンスキー
独奏ピアノ:ビクトリア・ポストニコヴァ
演奏ハーグ・レジデンティ管弦楽団
録音1998年5月25〜27日
発売Chandos
CD番号CHAN 9728


このCDを聴いた感想です。


 スクリャービンというとまず思い浮かぶのが「神秘主義」
 交響曲第4番「法悦の詩」などの代表曲を聴くと、雰囲気は独特な魅力があるものの深遠すぎるのか特異すぎるのか、パッと聴いてパッと納得できるような取っ付きの良い曲ではありません。
 わたしも、いきなり「法悦の詩」や「プロメテウス:火の詩」から聴き始めたため、その洪水のような響きに圧倒されると共に、今まで馴染んできたロマン派や古典派の曲とまるで違う音楽にどこから近づいていったらよいか分からず戸惑いを感じたものです。
 そんな時、交響曲に一緒に入っていたこのピアノ協奏曲を聞き驚きました。
 とても同じ作曲家が書いたとは思えないくらい耳に馴染みやすい音楽だったのです。
 交響曲では「神秘和音」と呼ばれる妖しげな和音の響きがメインで、メロディーは雰囲気を盛り上げるの手段の一つに過ぎず半分おまけみたいなものでしたが、ピアノ協奏曲ではメロディーが主体で和音は伴奏の立場に留まっています。
 そのメロディーも、交響曲で使われているような不安感を煽るようなヒステリックなものではなく、もっと落ち着いた安らぎが感じられるようなメロディーです。
 特に第2楽章のメロディーは哀愁の漂う民謡調で優しく澄んだ美しさがあります。この第2楽章はそのメロディーを基にした変奏曲形式であるため、いつまでもいろいろな形でメロディーを楽しむことができ、ピアノ協奏曲の中で最も印象に残った楽章になりました。
 本当に交響曲とは全く雰囲気が違い、もし知らずに聞かされていたら、とてもスクリャービンの曲とは信じられなかったでしょう。
 それだけ雰囲気が違う理由の一つとして、「法悦の詩」や「プロメテウス:火の詩」が晩年(といってもまだ40代ですが)の作品に対して、このピアノ協奏曲は20代中頃のまだ若い時期に作られたというのもあるのかもしれません。つまり、まだ神秘主義にのめり込む前かもしくは入りかけの頃ということですね。

 演奏の方では、ソロのポストニコヴァの硬めの音が印象に残りました。
 輪郭のハッキリした粒の揃った音で、ゆったりとした楽章での柔らかさや幻想的な雰囲気はあまりありませんが、その分意志の強さと緊張感を感じました。
 音にフォーカスをかけず鮮明に出す、叙情性よりも現実性を重視した弾き方です。
 オーケストラの伴奏は、ロジェストヴェンスキーの指揮とはいえ、演奏しているのがハーグ・レジデンティ管ということもあり、ロシアの荒々しさはなく、調和のとれた洗練された響きです。
 管楽器の一部(特にホルンのあたり)に少しビブラートを効かせたりとロシアっぽい響きが聞こえることもありますが、弦楽器が落ち着いているため彩りとなり、これはこれでいいアクセントになっています。
 その一方で、フォルテとピアノのダイナミクスの差は、ロジェストヴェンスキーらしく大げさといっても良いぐらい広い幅があります。
 特にフォルテで長く引っ張っておいて、ここぞという場面でもう一段階アップさせるところなんかは「おお、これぞロジェストヴェンスキー」と思わずニヤリと笑ってしまったほどです。
 ドロドロしたロシア的風情には欠けますが、もともと曲自体が泥臭い曲ではないのですから、これぐらい洗練された演奏で雰囲気的にちょうど合っているのではないかと思います。(2004/5/29)


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