指揮 | アルバート・コーツ |
演奏 | ロンドン交響楽団 |
録音 | 1929年11月7日 |
カップリング | グリンカ 歌劇「ルスランとリュドミラ」序曲 他 「Albert Coates conducts - volume 1:Russian favorites」より |
発売 | KOCH |
CD番号 | 3-7700-2 H1 |
スピード感に圧倒された演奏です。 はて? 「中央アジアの草原にて」という曲は、隊商が草原を行く様を描いた、一枚の絵のようなのどかな雰囲気の曲ではなかったっけ? と首を捻られる方もいらっしゃると思います。 わたしも、これまではこの曲の事をそう思っていました。 実際のところ、この演奏も出だしはイメージ通りのどかな雰囲気で始まり、テンポも取りたてて速いというほどでもありません。 それが急激に変ってくるのが、チェロとビオラがピチカートで伴奏し始める辺りからです。 まるで、それまで一般道を走っていたのが、高速道路に入ったかのように、ぐんぐんテンポが加速していきます。 そのまま加速していったテンポが最高速になるのが、間でアジアのメロディーを挟んで次にロシアのメロディーが出てくる部分です。 この時、ポイントとなるのが、チェロとビオラ、特に裏拍のビオラのピチカートによる伴奏です。 このピチカートがテンポをどんどん巻き上げて行き、普通はもっとのんびりしている筈のロシアのメロディーも、奥さんに尻を叩かれた旦那の如く、緊張感がみなぎっています。 これが、フォルティッシモの全合奏で、ロシアのメロディーを演奏するところまで来ると、テンポはもう相当なもので、これに加えて、高弦の両ヴァイオリンとビオラの、短い音の和音の連続が、ほとんど叩きつけんばかりに激しいアタックをつけて演奏されるものですから、その迫力たるや、遮るものは全てなぎ倒して行かんばかりの圧倒されるような勢いがあります。 この演奏のスタイル、以前書いた「ルスランとリュドミラ」序曲と方向性が全く一緒です。 その猛烈な勢いといい、凝縮されたエネルギーといい、同じ指揮者による演奏という事がよくわかります。 ロシアのメロディーがそれだけスピード感に溢れるものである一方、アジアのメロディーの方は、逆に極端に遅いテンポで演奏されています。 さらに、速いロシアの方はほとんどテンポを動かさず一定のテンポを保っていたの対して、遅いアジアの方は、フレーズの終りでは後ろに引きずったりと、かなり大きくテンポを揺らしています。 このパターンはメンゲルベルクの同曲の演奏と同じなのですが、メンゲルベルクと大きく異なっているのは、メンゲルベルクはアジアのメロディーを演奏する時には、非常に濃厚にネットリと歌わせていたのに対して、コーツはそこまで濃厚ではなく、もっとアッサリしています。 もちろんロシアのメロディーに較べればずっと表情付けが濃い方なのですが、ポルタメントもほとんど掛けていませんし、音の変わり目を次の音に被さるぐらい粘らせている割には薄口に留まっています。 個人的には、もう少し、音と音とを上手く繋いで、濃く歌わせて欲しかったのですが、逆に、その分メンゲルベルクの演奏と較べると風通しが良い印象を受けます(2003/2/23) |