A.P.ボロディン 「だったん人の踊り」歌劇「イーゴリ公」より

指揮ウィリアム・スタインバーグ
演奏ピッツバーグ交響楽団
録音1958年3月18日
カップリングP.I.チャイコフスキー イタリア奇想曲 他
発売EMI(Capitol)
CD番号CDM 5 67249 2


このCDを聴いた感想です。


 メロディーを情緒たっぷりに歌うあまり、少々線を踏み越えてしまったようです。
 冒頭のゆっくりとしたテンポの部分で、フルートから始まるメロディーを、ビブラートも大きくかけて思い入れたっぷりに歌わせています。表情が豊かで哀愁が深く感じられて、それはそれで素晴らしいのですが、感情がこもりすぎてテンポやリズムの枠を壊して外へ飛び出しています。フレーズの頭の音を特に力を入れて吹いているために、本来の音の長さよりもずいぶん長くなっているように聞こえます。メロディーが上がって下がり始める3拍目は、楽譜では3連符で、「ラソファ|ミー|ファーミレ|ドー」(Aをドとしています)となるはずが、ほとんど「ラーソファ|ミー」になっていて、次の小節の1拍目の「ファーミレ|ドー」のリズムに近くなっています。
 なんだか訛りのある言葉を聴いているみたいで、明らかに変ではありますが、そこがまた情緒が深く感じられる要因でもあり、わたしはそういうところが好きですが、人によって許せる範囲かというのは分かれるところでしょう。とにかく印象に残る一風変わった演奏です。
 それだけ個性的なゆったりとした部分に比べて、中盤からの速いテンポの部分と、実はセットでついてきた「だったん人の娘たちの踊り」は、そこまで変わったところはありませんが、ちょっと面白かったのがトランペットとトロンボーンのバランスです。
 常にというわけではないのですが、部分的に妙にトランペットとトロンボーンを強調しています。
 例えば、テンポが速くなった部分からしばらくして、拍子が4拍子から3拍子に変わり、ティンパニーの連打から始まる激しい部分があります。このティンパニーの連打の後の全体で演奏される部分は、弦楽器と木管の大部分がユニゾンのメロディーで、他は伸ばしとかリズムだけの単なる伴奏です。普通に考えれば、大ユニゾンのメロディーを聞かせるべきもので、多くの演奏もバランスとしてはメロディーが最も強く聞こえてきます。
 ところがこの演奏は、メロディーを弾いたり吹いたりしている弦・木管楽器よりも、トランペットの方がはるかに強く出てくるのです。この部分のトランペットは、一つの音を細かいリズムで刻んでいるだけの半分打楽器のような扱いなのですが、まるでこの動きがメロディーで主役のようです。そもそも他の演奏ではトランペットがそういう細かい刻みをやっていることなんて全く聞こえず、この演奏を聴いてそんな動きをしていたことを初めて知り、あわてて楽譜を見て確認したくらいです。
 トロンボーンもトランペットもこういったリズム系の動きの時に強調されることが多く、警報機のようにけたたましい音が鳴り響きます。もともと表現しているものが洗練された踊りではなく民族的な力強さが出ている踊りと考えると、こういうけたたましさも狂騒的な雰囲気があって意外と合っているのかもしれません。
 スタインバーグとピッツバーグ響といえば、アメリカのオーケストラの中でも随一のドイツ的な重厚さを持つコンビのはずですが、この演奏は曲目もあり、あまりそういったどっしりとした演奏ではありません。
 テンポもガチッと固まっておらずかなり流動的です。速い部分などはずいぶん前につっこみ気味で、アンサンブルもベートーヴェン辺りを演奏するときと違い、それほどきっちりとはまとまっていません。
 むしろ、以前感想を書いたラヴェルの「ボレロ」と同じ系統で、他を犠牲にしてでも歌わせまくったけっこう無茶な演奏です。(2008/11/22)


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