A.オネゲル 交響的運動 第1番 「パシフィック231」

指揮ヘルマン・シェルヘン
演奏ロイヤル・フィルハーモニック管弦楽団
録音1954年9月
カップリングオネゲル 交響的運動 第2番 「ラグビー」 他
発売Universal(Westminster)
CD番号471 245-2


このCDを聴いた感想です。


 この曲は、良く知られている通り、通称「パシフィック型」と呼ばれる大きな蒸気機関車が、駅を出発して加速して減速して次の駅に到着するまでをそのまま音にしたという、即物主義の代表作のような作品です。
 当然、機械の律動感と、驀進する蒸気機関車をイメージするような力強さを前面に打ち出した演奏が多いのですが、シェルヘンの演奏はそれだけではありません。
 もちろん、律動感や力強さはあるのですが、蒸気機関車の邁進する姿を、ちょっと遠くから列車全体を眺めているという雰囲気ではなく、もっと機関車の間近で、車輪やピストン等の細かい部品が絶え間無く動いているのをつぶさに観察しているような印象を受けます。
 これが距離をおいて全体を眺めているのであれば、動きは、列車全体が前に進んでいるという一つしかないのですが、一つ一つの部品に注目すれば、動きは前に進むだけの一つではなく、ピストンのように前後運動しているもの、車輪のように回転運動しているもの、といったように、一見何の関わりも無いような様々な動きが同時に行われている事に気がつきます。
 同じように、この演奏は、全体としての大きな流れよりも、各楽器が行なっている個々の動きを強調して、変に取り繕ったりせず、そのまま直接ぶつけあっています。
 そういう、いわば裸の状態で改めて聴いてみると、この曲が非常に複雑な動きの組み合わせで重厚感と機関車らしいメカニカルな雰囲気を出している事がよくわかります。
 メロディー自体は割と耳に馴染みやすいものだけに、目立つメロディーだけ追っていると、リズムがちょっと変わっているけどまあ普通の曲ぐらいにしか思えないのですが、実は和音はほとんど不協和音ですし、伴奏の歪んだ動きといい、明らかに現代の音楽です。
 シェルヘンは、こういう断面をえぐり出して見せているため、他の演奏には無い生々しさがあるのですが、その反面、全体としてのまとまりが薄くなるため、列車全体を見るような大きな塊としての迫力はあまり感じられません。
 ただ、一気に挽回のつもりなのかはわかりませんが、曲の最後、次の駅に列車が到着して止まろうとするシーンでは、音に叩きつけるようなアタックをつけ、響きを整える事一切無しに全てのパートを最強音で思いっきり鳴らし、恐ろしいまでの迫力を出しています。
 聴いていると、列車がブレーキをかけて普通に駅に止まったというより、車輪も何も吹き飛んでしまい、部品をそこら中に撒き散らしながら、地面との摩擦でやっとの事で動きが停止した、ぐらいのおどろおどろしさが感じられます。
 とても、安全と定時運行を基本とする乗り物ではなく、まるで一回きりのロケットカーのようで、スピード競争かなにかで記録を達成した次の瞬間バラバラに分解した車体の断末魔を聞いているかのようです。(2003/8/2)


サイトのTopへ戻る