A.ドヴォルジャーク 交響曲第8番 ト長調

指揮コンスタンティン・シルヴェストリ
演奏ロンドン・フィルハーモニック管弦楽団
録音1957年6月24・25日,7月1日,1958年2月7日
カップリングエネスコ ルーマニア狂詩曲第1番 他
発売東芝EMI
CD番号TOCE-9245・46


このCDを聴いた感想です。


 曲の中で、同じメロディーがソナタ形式なら呈示部や展開部、再現部という形で何度も登場することはよくありますが、ここまで明らかに歌い方を変えてくる演奏はそうそう無いのではないでしょうか。
 特に第1楽章冒頭のメロディーが良い例です。
 ここは低弦等によって演奏される哀愁漂う印象的なメロディーで、もちろんシルヴェストリもたっぷりと歌わせています。
 このメロディーは、ほぼ4分後の展開部(第127小節)から、ほとんど同じ形で登場するのですが、ここでの歌わせ方は、冒頭と較べて、知らずに聴いていてもすぐに分かるぐらい一段階歌い方が濃くなっています。
 冒頭では、歌っているといってもあくまでも一定のテンポの枠内で歌わせているのに対して、展開部ではテンポを自在に伸び縮みまでさせていっそう表情豊かに染み入るように歌わせています。
 同じメロディーでも、より表現をエスカレートさせることで慣れが出てしまうのを防ぎ、初めて聴いた時のように新鮮さが感じられました。
 ちなみに、呈示部、展開部と来たのなら、再現部(第219小節)はどうかというと、同じメロディーとはいえ雰囲気は全く違うため同列には較べられません。
 ピアノはフォルテになり、テンポも速く、そもそもメロディーを演奏するのも低弦ではなくトランペットで、一つ一つの音を切って昂然と演奏されます。楽章でも最も華やかな部分の一つであり、これはもともと完全に別物です。
 他にも、第3楽章で歌い方を変えているのがわかります。
 第3楽章は典型的なコーダ付きの3部形式で、中間部が終わった後はダル・セーニョで戻っていますから、冒頭と2回目の主部は楽譜上は全く同じです。
 しかし歌わせ方は、だいぶ違いがあります。
 ただこちらは第1楽章と違い、舞曲系ということもあってテンポはどちらもそれほど大きくは変えずほぼ一定ですし、メロディーに力を入れて歌わせているという点では、むしろ冒頭の方が重く力が入っています。
 逆に、中間部が終わってからの方は、一聴したところでは力を抜いて軽く歌わせているだけのように聞こえます。
 ところが、印象に残るのはなぜか中間部が終わってからの方なのです。
 冒頭の方は、たしかに力は入っているのですが、歌うことに懸命で余裕が無いように感じられます。
 一方、中間部が終わってからの方は、サラッと軽く流しているようでいて、その実、感情を表に出さず内側で堪えているようで、かえってせつなさが強く伝わってきます。
 この歌い方は、全曲の中でも最高の聴き所だと思います。

 さらに、もう一点この演奏の良さを挙げるとすれば、ピアノ部分の音の入りの柔らかさです。
 まるで境目が無いみたいに滑らかに音が入って来て、しだいにメロディーや響きが立ち上がってくる様子は、自然と聴く者の気持ちを集中させて、メロディーの表情や響きの美しさをより際立たせています。
 曲に漂う哀愁も、これによって5割方はアップしているのではないでしょうか。
 それに対して、フォルテ部分はわりと明確なアタックで他の演奏ともそれほど大きな差はなく、力が入って重い分、他の演奏に較べて少し鈍く沈んだ印象を受けます。
 ただ、演奏しているロンドン・フィルの響きがわりと乾いたパリッとしたもので、人によってはせっかくの重厚な雰囲気が損なわれると思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、わたしはこれぐらいドライの方がうまくバランスが取れてちょうど良いのではないかと思いました。(2005/2/12)


サイトのTopへ戻る