A.ドヴォルジャーク 交響曲第8番 ト長調

指揮ジョージ・セル
演奏クリーブランド管弦楽団
録音1970年4月
カップリングドヴォルジャーク スラヴ舞曲第10・3番 他
発売EMI
CD番号5 69509 2


このCDを聴いた感想です。


 もう、冒頭だけで脱帽しました。
 この低音のメロディーから、ここまで哀愁を引き出した演奏は今まで聴いた事がありません。
 フレーズの最後でのテンポの自然な緩め方、微妙に出し入れされる強弱、楽器同士の絶妙なバランス、全てが細かくコントロールされ、相互に効果を高めていき、感情豊かな音楽を生み出しています。
 しかも、感情豊かだからといって、くどかったり大げさになったりせず、逆に、晩秋のように、あっさりとしてどこかうら寂しさを漂わせています。
 セルとクリーブランド管の演奏といえば、『完璧なアンサンブル』という絶大なアドバンテージがありますが、この冒頭は、そういう特長すら忘れて圧倒されました。
 正直言って、万が一冒頭部分以外は全部どうしようもない演奏だったとしても(もちろん、そんな事は無かったのですが)、この冒頭さえあれば十分満足できると思ったぐらいです。

 その一方で、完璧なアンサンブルももちろん健在です。
 まさしく、スコアをそのまま音にしたと言いたくなるくらい、どんな細かい音符でもゴチャゴチャになったりせず、ちゃんと独立して聞こえてきます。
 響きも、密度が濃く弛緩したところのない、引き締まった響きです。
 ただ、この凝縮された響きは、ピアノではほとんど違和感ありませんが、フォルテでは、あまりにも緊張感が高すぎて、ドヴォルジャークには窮屈すぎるように感じました。
 同じことがトランペットにも言えます。
 この曲は、第4楽章冒頭のファンファーレのように、トランペットがフォルテで吹くソロが多く登場するのですが、音が鋭く引き絞られすぎて、なんだか突き刺さってくるかのようです。個人的には、もうちょっと幅のある太い響きが欲しいところです。
 それに、このトランペットは、音が良く通るという点では申し分ないのですが、音色がなんだか荒れてハスキーなので、もっと滑らかで輝かしい音色の方が良かったのではないかと思います。
 このように2、3点気になる部分はあるものの、この演奏の合奏力の高さにはそれ以上の魅力があります。
 特に驚いたのが、第4楽章のアレグロに入ってから最初の方と、最後に出てくる、ホルンと木管のフォルティッシモでのトリルです。
 このトリルは、ほとんど効果音みたいなもので、大抵どの演奏でも、音色とかほとんど無視して、とにかく大きな音で吹かせるため、トリルの回数も揃えたりはしない事が多いのですが、セルはこのトリオの回数を全部揃えているのです。
 全員揃って同じ動きをする様は、これはもうトリルというより、楽譜に16分音符かなにかでキチンと記譜してあるみたいで、ここまで来ると、凄いというか、それを超えて、なんだか間が抜けています(笑)
 そして、これだけ揃った演奏を聴くにあたって、一番期待していたのは、曲が終る間際のトロンボーンの、ある音型です。
 この音型は、トランペットと一緒に、たった1小節の間に16分音符で『ソファミレドシラソ』と一気にレガートで駆け下りる動きで、よほどテンポを遅くしない限り、一般的に使われるスライド・トロンボーンでは、楽譜通り演奏する事はどんなプロでもまず不可能でしょう。
 わたしは、セルがこの部分のトロンボーンをどうするのか非常に興味があり期待していました。
 だんだん曲が終わりに近づき、その部分が迫ってきても、テンポを遅くする気配はありません。
 さあ、どうする! ……と思ったら、一緒に吹いているトランペットを強く吹かせて、トロンボーンを覆い隠してしまいました。
 おかげでトロンボーンがどう吹いたのかさっぱりわかりません。
 残念ながら、なんだか肩透かしをされたような気分になりました(笑)(2003/7/12)


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