指揮 | ジョン・バルビローリ |
演奏 | アムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団 |
録音 | 1969年1月22日 |
カップリング | サティ ジムノペディ第1・3番 他 |
発売 | TESTAMENT |
CD番号 | SBT 1252 |
わたしがこの感想で演奏を取り上げる時には、少なくとも自分は「良い」と思ったものを取り上げ、悪く感じた演奏はできるだけ書かないようにしていましたが、この演奏の凄まじさは、もう「悪い」を通り越して、逆に感心してしまい、思わず感想を書きたくなってしまいました(笑) まず、オーケストラが、指揮者がつくる音楽の流れに乗り損ねています。 ある部分では速かったり、ある部分では遅かったりと、どうしてもピシッと上手くはまりません。 これも、一つは慣れていないせいもあるのでしょう。 付属のリーフレットによると、この演奏は、1969年というバルビローリが亡くなる一年前ながら、バルビローリが指揮者としてコンセルトヘボウ管と共演するのは、それが初めてだったそうで、練習の時も最初は団員に意図をなかなか理解してもらえなかったと書いてあります。(……たぶん。すみません、原文が英語なので訳は間違っているかもしれません) 一応、最後にはバルビローリの意図を完全に理解できるようになった、とも書いてあるようなのですが、この演奏を聴く限りは、とてもとても、団員に意図が浸透していたとは思えません。 メロディーの出だしなんか、「ほんとうに、これでいいのかなぁ」という風に、おっかなびっくり入ってきますし、音楽が指揮より飛ばしすぎたり引っ張りすぎたりして、大慌てで指揮に合わせる事もしばしばです。 それでも、オーケストラの中では揃っているのなら、まだ単純に指揮とオーケストラがずれているだけで済んでいるのですが、さらに酷い事に、オーケストラの中でも揃っていません。 というか、もうボロボロです(笑) パートによってテンポが異なる事すら珍しくなく、まるでこの曲を初めて演奏したかのようで、メロディーを演奏していても、初めはなんとなく自信なさげで、そのうち「ああ! 今演奏しているのって、もしかして、メロディーなんじゃないか!?」と初めて気がついたように、途中からやっと調子が出てきますし、管楽器のソロも怪しげな部分がそこかしこに見られます。 おそらく一発録りですから、ある程度はしょうがない面もあるのですが、それにしてもあまりにも間違えすぎではないかと思います。 そもそも音が安定していませんし、クラリネットなんて「ヒャー」というリード音を出してひっくり返ったり、ホルンも大きく音を外してヒヤヒヤさせてくれます。 しかし、なんといっても笑ってしまったのが、主題と主題の移り変わりです。 本来ならば、ハッキリと境界があって次の主題に切り替わるはずのところで、まるでその境界の上にハンカチを被せて、「ハーイ、ちょっとゴソゴソするアルよ」と怪しげな手品師がいかにもインチキ臭い仕草をするように、前の主題と次の主題が入り混じってうやむやになった中から、ドサクサ紛れに「もわー」とメロディーが浮かび上がってくるといった次第で、怪しさ満点です。 まさか、それまでこの曲を演奏した事が無いわけはないでしょうが、よもやと思いたくなってくるほど、「これでいいのかなー、本当にいいのかなー」といった風に、弾き方からしていかにも自信無さそうです。 一方、指揮のバルビローリの方にも、「これはどうかな」と首を捻りたくなるような点がいくつもあります。 テンポの方も、オーケストラと今一つ息が合っていないのがわかっていると思われるのに、唐突に変化させますし、しかも、曲の流れをわざと断ち切るかのように、妙に後ろに引っ張ります。 曲の最後のMolto Maestosoでテンポが遅くなる部分なんて、本当に気が遠くなるくらいテンポが遅くなり、締め括りの同じ和音を全音符で四回演奏する部分に至っては、多くの演奏では四つ続けて演奏するところを(実際、楽譜上もそうなっています)、一つの音符毎に一旦切って、改めて振りかぶって次の和音に入るほどです。 もちろん、この演奏も、部分的には「おっ!」と言わせるような光るところもあったのですが、ここまでくると、それよりも、気持ち良いぐらいメチャクチャな崩壊ぶりの方が楽しくなってきます(笑) それにしても、やはり、指揮者以上にオーケストラの酷さは特筆ものです。 とても、仮にもテクニックに定評があるオーケストラとは思えないほどで、もし、初めてコンセルトヘボウ管を聴いたのがこの演奏だったら、コンセルトヘボウ管というオーケストラはとんでもなく下手な団体と思われてしまうのではないでしょうか。 しかも、たった6年後には、同じ曲なのにアンサンブルがピタッと揃った素晴らしい演奏を録音しているのですから、ますますわけがわかりません。 いや、これはもしかして……実は全くの別団体だったというオチなのではないでしょうか!?(笑)(2003/8/30) |