A.ドヴォルジャーク チェロ協奏曲 ロ短調

指揮ウィレム・メンゲルベルク
独奏Vc:ポール・トルトゥリエ
演奏パリ放送管弦楽団
録音1944年1月16日
発売及び
CD番号
MALIBRAN-MUSIC(CDRG 188)


このCDを聴いた感想です。


 メンゲルベルクが終戦間際にパリ放送管弦楽団と行なったライブの録音は、今まではジャンドロンをソロに迎えたドヴォルジャークのチェロ協奏曲がありました。
 しかしこの演奏は、TAHRAのディスコグラフィーなどによると、当日ソリストだったのはジャンドロンではなくトルトゥリエだったことなどから、本当はメンゲルベルクの演奏ではないのではないかと、疑問視されていました。
 ただ、偽録音と断言するだけの確証も無く、さらに、録音当時から何十年も経った今となっては、新たな証拠が出てくる可能性も、普通に考えればゼロでしょうから、真相が明らかになることは無いと思われました。
 ところが、その普通では考えられないことが起きました。
 21世紀に入って8年も過ぎた2009年にもなって、当時の録音が発見されたのです。録音が1944年ですから、実に65年振りに陽の目を見たわけです。
 おまけに、問題のチェロ協奏曲だけでなく、当日(1月16日)及び別の一日(1月20日)の他の曲の演奏まで発掘されました。チェロ協奏曲を含めて全6曲で、惜しいことに全く初めての曲はありません。それでもチャイコフスキーの「悲愴」などは、今までスタジオ録音はあってもライブ録音はこれが初めてで、非常に貴重なものです。
 いやもう、まさか今時、メンゲルベルクの新譜が発売されるなんてことは、夢にも思いませんでした。
 そうなると、ムソルグスキーの「はげ山の一夜」など、録音があるらしいと噂されるものの存在するのかどうかすら怪しい録音なども、もしかしたらまかり間違えてどこかで発見されるかもしれないと、期待してしまいたくなってきます。

 さて、その新しく発見された、今度こそトルトゥリエをソロに迎えたチェロ協奏曲ですが、なるほどこれはフランスのオーケストラだと、聴いた瞬間納得しました。
 それまでの伝メンゲルベルクの演奏が、言われてみればフランスのオーケストラのような気もしないでもない、程度だったのに対して、こちらのオーケストラの音は、薄く横に伸びる響きで、ソロもビブラートを強く利かせ、フワッと浮くような音色で、たしかにパリ音楽院管などと同じ系統です。
 ただ、フランス系の指揮者の演奏とは大きく違う点があります。
 あくまでも、わたしのイメージですが、フランス系の指揮者の音楽は、キラキラと華やかで、輝いていてもそれほど粘着系ではなく、どこか淡く軽いところがあります。もちろんそれが魅力でもあるのですが。
 ところがこの演奏は、「キラキラ」ではなく、完全に「ギラギラ」です。真夏の太陽並みに眩しいほど照り付けてきます。
 特にフォルテでは、持てる力を限界まで出し切ったようなフルパワーで、全力疾走してゴールした後の達成感のような、爽やかな感覚まで感じられます。
 さらに、メンゲルベルクらしさを感じたのが音楽の盛り上げ方です。
 テンポをルバートのように自在に伸び縮みさせながら、頂点へとオーケストラが自身の力で自然に向かっていくように持って行き、そろそろ頂点という部分で、今度はメンゲルベルクが自分の意志で、全体をオーケストラが目指している頂点よりももう一段高いところへとグイッと引っ張り上げています。オーケストラだけでは実現できなかった強い高揚感をメンゲルベルクはもたらしているのです。
 オーケストラの方も、メンゲルベルクお得意の、テンポを大きく後ろに引っ張った後、新しいフレーズに入る瞬間にパッと速いテンポに戻すという、急激なテンポ変化にまともについていっており、なかなかレベルが高いことをうかがわせます。
 ソロのトルトゥリエは、1914年生まれですから、当時は30歳直前。本格的にソリストとして活躍し始めるのは戦後からですから、最初期の頃ということになります。
 録音もあるのでしょうが、音色がとにかく明快です。深いというよりもピンと立った音で、まさに若々しく表情豊かに歌っています。背後の、伴奏とは思えないぐらい全開で鳴らしきったオーケストラに対しても、埋もれることなく、まっすぐ突き抜けて聞こえてきます。
 テクニックも、しっかりしたもので、特に第1楽章の第158小節以降の16分音符の3連符のような速い動きなどは、明快な音と相まって、その動きの良さには圧倒されます。
 ただその一方で、音程などは結構大きく危ないところもありました。なかでも、第3楽章のソロが出てきた直後の、高い音の重音の部分などは、許容範囲を遥かに突破したとんでもない音程で、あまりの不協和音ぶりに頭が割れそうになってくるほどです。おそらく指を間違えたか何かとは思いますが、丸々一小節続くのですから、そこは何とかフォローして欲しいものでした。
 気になる録音状態は、時代を考えるとかなり良いほうだと思います。
 ソロはもちろんのこと、バックのオーケストラも、細かい部分までわりと聞き取ることができますし、雑音もそこそこ少なめです。少なくとも、横で焚き火でもしているのではないかと疑いたくなってしまう、ほぼ同時代のブラームスの交響曲第3番の録音の惨状を考えると、天地の開きがあります。
 ただ、残念ながら何箇所か音が飛んでしまっている部分があります。楽譜のカットにしては不自然な飛び方だったので、おそらく原盤の損傷によるものと思いますが、ちょっと残念なところです。

 このシリーズは、じっくり聴きたいため、まだ他の録音は聴いていませんが、この演奏の状況からすると、他の録音を聴くのがとても楽しみです。(2009/10/3)


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