A.コープランド 「エル・サロン・メヒコ」

指揮セルゲイ・クーセヴィツキー
演奏ボストン交響楽団
録音1938年12月1日
カップリングフート 弦楽のための組曲ホ長調 他
「Koussevitzky Conducts American Music」の一部
発売Pearl(Victor)
CD番号GEMM CD 9492


このCDを聴いた感想です。


 曲名の「エル・サロン・メヒコ」は、日本語訳すると「酒場メキシコ」。
 なんだか場末の飲み屋のような名称ですが、実は、ちゃんとメキシコ・シティに実在するダンスホールの名前なのだそうです。
 コープランドは1932年に、生まれも育ちもメキシコ・シティの作曲家チャベスに案内されてこのダンスホールを訪れ、その雰囲気に強い印象を受け、この曲を作曲したのです。
 ちなみに、初演したのも、チャベスと、当時チャベスが長く指揮者を務めていたメキシコ交響楽団で、1937年8月27日のことです。
 一方、アメリカにおける、演奏会における初演を手がけたのがクーセヴィツキーとボストン交響楽団で、翌年の1938年10月14日に行なわれました(実は演奏会の初演よりも放送による初演の方が先でした(指揮者はボールト))。
 この録音は、それから約一年後で、同じコンビによる録音というわけです。
 たぶんこの曲の最初の録音でしょう。

 この演奏で一番の聴き所は、各楽器のソロ、中でも後半に登場する、普通のクラリネットよりも管の短い(つまり音が高い)Es管のクラリネットによるソロです。
 鼻にかかったような甘い音色、細かく振動するビブラート、そしてその歌わせ方は、小悪魔的な妖艶さと共に、ユーモラスでもあり、一度聴いたら忘れられないぐらい強く印象に残ります。
 実際、演奏会を聴いたコープランド本人も、このボストン響のEsクラリネット(奏者はRosario Mazzeo)が一番印象に残ったと見え、わざわざ『指揮者のクーセヴィツキーにメキシコの楽器の雰囲気を出せと要求されたクラリネット奏者は、驚異的に応えてみせた』と書いているほどです。(上記のコープランドの文章は、わたしが英文から直訳したので間違っている可能性があります。注意してください)
 クラリネット以外のソロ楽器も、表情豊かです。
 最初の方に出てくるトランペットは、陽気な音色で気ままに動き回っているみたいですし、その後のファゴットは、明るい中にも太陽がギラギラと照り付ける午後のような気だるさと哀愁が感じられます。
 中間の弦楽器達のソロも、ゆったりとしていても優雅ではなく、表情が濃く出ていてラテンの血を感じさせるのが良いですし、Esクラリネットのソロとほぼ同じ頃に登場するイングリッシュ・ホルンは、Esクラリネットの向こうを張っても引けを取らず、基本は陽気だけどちょっと陰のある攻撃的な突っ張った雰囲気は、こちらも魅力があります。

 ただ、個々ではなく全体として見ると、ちょっとまとまりすぎているような気がします。
 テンポなんかは、杓子定規とは正反対で、かなり自由に動かしていて雰囲気によく合っているのですが、全体で合奏する時の響きが、良く締まっているだけに逆にインターナショナルになってしまい、ローカルな匂いが薄くなっています。
 まあ、これも良し悪しなのですが、個人的には、もっと締め付けが弱い方が、メキシカンっぽさが強く感じられて、さらに雰囲気が出たのではないかと思います。(2003/8/9)


サイトのTopへ戻る