A.ブルックナー 交響曲第8番 ハ短調
(ハース版)

指揮エフゲニー・ムラヴィンスキー
演奏レニングラード・フィルハーモニー管弦楽団
録音1959年6月30日
発売BMGジャパン(Melodiya)
CD番号BVCX-4012(74321-45881-2)


このCDを聴いた感想です。


 ソヴィエト(ロシア)のブルックナーというと、キワモノ扱いされる事が多い中、ムラヴィンスキーだけは例外的に定評があります。
 ただ、それはもっぱら1980年の第9番の演奏で、今回取り上げる第8番では無かったりしますが。
 ちなみに、わたしは肝心の第9番の演奏を未だに聴いておりません。ですので、今回の感想は、あくまでも第8番の演奏だけを聴いた者の感想ということでお願いします。
 さて、その第8番ですが、まあ、一言で言えば「濃い」演奏でした。
 ムラヴィンスキーというと、わたしのイメージではメロディーに合わせてテンポを伸び縮みさせたりせず、そっけないぐらい一定のテンポでキレ良い音楽を作り上げるという印象が強いのですが、この演奏では、流れに合わせて意外とテンポを動かしています。
 とはいえ、19世紀生まれの指揮者のようなロマン的解釈バリバリの極端なテンポ変化はしていませんし、ハース版を採用しているのにCD一枚に収まるぐらいですから基本的なテンポはかなり速めですが、筋肉質で悲鳴が上がりそうなぐらい引き締まった雰囲気ではなく、もう少しゆったりというか余裕が感じられます。
 これだけなら、ムラヴィンスキーにしてはちょっと珍しいかもしれないけど、他の指揮者の演奏に近づいただけで、かえって普通みたいではないかと思われるかもしれませんが、その普通さをくつがえして「濃さ」を印象付けているのが、オーケストラの音色です。
 弦、木管、金管全てに渡って、これぞロシアの音色です。
 メロディーや和音がいくらブルックナーだドイツだと一所懸命に主張していても、音色だけで全てのドイツ色をあっさりと消し去っています。
 弦楽器は鋼のように冷たく強靭です。言うなればスチール弦使用率120%といったところでしょうか。しかし、それだけに鋭く、テコでも動かぬような力強さと硬さは抜群です。
 一方、木管金管の両管楽器は、ペンキを塗ったように平たくベッタリとした音色です。その上、ほとんど割っているんじゃないかと思えるぐらいバリバリといっている荒々しさで追い討ちをかけています。
 特にフォルテの部分では、響きの美しさなどという軟派な物は無用です。力こそ正義とばかりに、力一杯吹きまくっています。ここでは「パワー」「迫力」こそが最も価値のあるもののようです。
 もちろん、和音はちゃんと綺麗に合っているのですが、そんな部分よりも、完全に鳴らし切った、輝くエネルギーの塊のような迫力の方にどうしても目が奪われます。
 さらに、弦管全てにわたって、大きくビブラートがかけられています。
 ここまでくると、ただでさえ濃いトンコツラーメンにすりおろしたニンニクをたっぷりと入れられたようなもので、ギラギラした音色がさらにコッテリとして、ブルックナーの謳い文句の大自然どころか欲望丸出しの人間臭さい響きになっています。
 実は、メロディーの歌わせ方などは、あまり情感を込めて濃い表情で歌わせているわけではなく、むしろそっけなくと形容できるぐらいアッサリとしてるのですが、テンポに余裕を持たせているのと、なにより音色が濃いこともあって、全体の雰囲気は完全にベタッとしたロシア色で塗りつくされています。
 個人的にはこういう濃い演奏も大いに気に入っているのですが、どう考えても一般受けからは遠く、プロ野球で言えばオリックス・ブルーウェーブを一番の人気チームにするようなものでしょう。(いえ、わたしはファンなんですが)
 第8番を聴いた限りでは、どうして第9番がそんなに評判が良いのか不思議でしょうがありません。もしかして、響きが全く違うのでしょうか。
 と見せかけて実はわたしと音楽の趣味が一緒の人ばっかりだったというオチだったら、それはそれで心配ですが(笑)
 まあ、後、録音による違いもあるのかもしれません。
 正直言って、この演奏はあまり録音は良くないと思います。
 さすがソヴィエトというべきか、1959年のスタジオ録音というのにまだモノラルですし、鮮明でもありません。
 ピアノはまだしも、特にフォルテの部分では音がごちゃ混ぜになってしまい、しかも割れてしまう部分があります。
 バランスも良くなく、これは指揮者の指示によるものかもしれませんが、弦がむやみに強く、管楽器とティンパニーが埋もれがちです。
 しかし、なんといっても一番まずいのが、音揺れを起こしている点です。
 録音というよりもオリジナルテープの保管状態による問題でしょうが、音質が一定の周期で変化しているため、非常に聴きづらくなっています。
 おそらくこの音揺れのせいで聴く気を失った人も結構多いのではないかと思います。これが無ければ印象も少しは上がるだろうと思えるだけに残念です。(2004/5/15)


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