指揮 | ギュンター・ヴァント |
演奏 | 北ドイツ放送交響楽団 |
録音 | 1987年8月22・23日 |
発売 | BMGビクター(RCA) |
CD番号 | BVCC-3001〜02 |
今日(2002年2月15日)、何とはなしにニュースを見ていましたら、ギュンター・ヴァント氏が亡くなったというニュースが報じられました。 そこで追悼の意も込めて、今回はヴァントの演奏を取り上げたいと思います。 しかし、実はわたし、ヴァントの演奏は好きなくせにほとんどCDを持っていません。 どうも、いつでも買えるというイメージがあり、CDショップに行っても、つい手に入り難そうな他の演奏家のCDを買ってしまっていたようです。 これは、『聴きたいなー』と思いつつもあまり買った覚えが無い朝比奈隆と同じで(あっ! そういえば、朝比奈さんが亡くなったときは特に何も取り上げませんでしたね。朝比奈隆のファンの方ごめんなさい。あの時はたしか年末であまり自由が利く状態ではなかったのです(←言い訳)。そもそも亡くなったのを知ったのすら、年が明けてからだったような気が……(汗))、今、ざっと見た限りではヴァントのCDは3枚しかありません。(実際に聴いた事のあるCDはもう少し多いです) その3枚の内、1枚あるハイドンは、既に紹介済みですので、残りは2枚。 実は両方ともブルックナーだったのですが、せっかくですから第8番の感想を書くことにしました。 この演奏は、ヴァントが北ドイツ放送響と行なった、ヴァント自身2回目のブルックナーの交響曲全集の一部なのですが(第1回目はケルン放送響と)、実は、この第8番とは第9番のみは、後日別の演奏と差し替えられています。 ということは、ヴァント自身はこの演奏を気に入っていなかったのでしょう。 噂によれば、原因の一つは会場で、この演奏が録音されたのが教会だったため、残響が多すぎると感じたためだそうです。 さて、演奏の方ですが、非常にスケールの大きな演奏です。 特に、ピアノからフォルテへの盛り上げ方が上手く、段階的に少しづつ滑らかに盛り上げていくため、途中で急にかけ離れたダイナミクスになることが無く、聴いている方の気持ちも音楽に一体感をもって盛り上がっていくのが実感できます。 さらに、ケルン放送響との録音の際には、金管などに幾分硬さが目立ったのですが、この演奏では柔らかさがあり、全体とよく調和しています。 また、テンポもスケール大きさを構成する重要な要素の一つです。 さすがにチェリビダッケほどではないと思いますが、この演奏も2枚組みで合計86分程度かかっていますから、クナッパーツブッシュとミュンヘン・フィルの演奏に匹敵するぐらいの遅さです。 もしテンポが速かったら、どうしても盛り上がりきる前に音楽が前へ前へと進んでしまうのですが、これだけテンポが遅いと、盛り上げる際にもじっくりと聴かせる事が出来ます。 しかも、音自体にはスピードがあるため、テンポが遅くてもダレた演奏にならず、緊張感が保たれています。 さらに、ヴァントがこの演奏を気に入らなかった理由(かもしれない)の残響ですが、わたしはむしろこれぐらい響きが残る方が美しいと思います。 残響が多い多いといっても、風呂じゃないんですから、細部がぼやける程反響するわけではありませんし、わたしは格別おかしいとは感じませんでした。 この演奏で特筆しておきたいのは第4楽章の最後です。 第647小節目、練習番号では『Uu』、ほとんどコーダといって良い部分で、ティンパニーが静かに『タタン、タタン』と叩く上をヴァイオリンが上昇音階を何回も弾いてだんだん盛り上げていくところ以降です。 この部分で、ヴァントはテンポを大幅に落とします。その上、ティンパニーの叩く二つの音の間をかなり空けています。 ここの頭がピアニッシモで、そこからフォルテまで長大なクレッシェンドがあるのですが、このクレッシェンドが恐ろしいまでの緊張感なのです。 特に、ゆっくり叩くティンパニーが非常に効果的で、この二つの音の間を十分に空けているために、音楽が後ろに引っ張られ、前に進もうとするエネルギーが2倍にも3倍にも溜まっていき、ちょっとでも突いたら破裂しそうなほどの強い緊張感がそこに生まれるわけです。 頭の方に、ヴァントは第8番を録り直したと書きましたが、実はわたしはまだその再録音の演奏を聴いたことがありません。 聴いてみると、意外とそっちの方が良いなんて事になるかもしれませんね(笑)(2002/2/15) |