A.ブルックナー 交響曲第5番 変ロ長調

指揮ロリン・マゼール
演奏ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
録音1974年3月
カップリングR.シュトラウス 交響詩「ドン・キホーテ」
発売ポリドール(Decca)
CD番号F50L-28055/6


このCDを聴いた感想です。


 「ああ、オルガンサウンドってこういうのを言うんだ」

 これが、この演奏を聞いたときの印象でした。

 とにかく音の一つ一つが抜けきったいい音なのです。
 決して詰まり気味になったり、押し込められたように大人しくなったりはしません。
 ピアノの部分は静かにして美しく、フォルテはパーンと鳴り響く。
 スケールが大きいくせに隙が無いのです。
 自分で書いていても信じられないような演奏です。

 この曲は、皆さんもご存知のように金管のコラールが頻繁に出てきます。
 この部分をここまでオルガンのように響かせた演奏は初めて聞きました。
 これは、おそらく単に和音が揃っているだけではなく、内声部をかなり強調したバランスだからではないかと思います。
 このバランスに、抜けきった音が加わることで、サウンドに尋常でない厚みが生まれ、あたかもオルガンのような響きが生まれたのでしょう。
 さらに怖いことに、このサウンドは、金管楽器だけでなく弦楽器や木管楽器がフォルテになった時にも表れるのです。
 聞いている身としては、ただただ圧倒されるばかりです。

 この演奏の、もう一つ大きな特徴として、メロディのダイナミックな歌わせ方があります。
 ピアノとフォルテの差を十分につけ、華麗に歌い上げます。
 それも、水気の少ないカラッとした軽い歌わせ方ではなく、かなり粘りのある重くギラギラした歌わせ方です。
 しかし、メンゲルベルクみたいにテンポを動かしたりするわけではありませんので、あからさまに演歌調になったり、もたれたりはしません。
 ただし、テンポを動かさないといっても、これは、テンポの速い部分と遅い部分であまり差がないという意味ではありません。
 一つのフレーズの中で動かしたりはしないという意味であって、ベースとなるテンポは速いテンポと遅いテンポとでハッキリとした差をつけています。
 この差は、他の人の演奏と比べると、むしろ大きい方でしょう。

 この演奏でわたしが気に入らないのが一箇所だけあります。
 その一箇所とは……最後のフォルテ3つのコラールです。
 いや、別にこの部分で弱くなるとかそんなんじゃありません。
 この部分の強弱記号はフォルテ3つで、その前の部分もセンプレ(ずっと同じという意味)でフォルテ3つですから、ダイナミクスは同じでいい筈なんです。楽譜上は。
 マゼールもちゃんとフォルテ3つを保っています。さらに存分に歌いきっています。
 ……でも、わたしにはダメなんです。
 この部分……この部分だけは、最後にもう一押し欲しいんです!
 朝比奈隆さんが、この曲を演奏する場合は、この部分のためだけに金管の別働隊を用意しておくらしいのですが、その気持ちがよくわかります。
 どこかのCMじゃありませんが、グッとなるものが欲しいのです。

 もちろん、この部分が気に入らなかったからといって、他の部分の価値が無くなったりはしません。
 実際のところ、この演奏は、わたしが今まで聞いた演奏で一番好きと言っても差し支えないほどです。
 ただし! ロジェストヴェンスキー盤だけは別格です。
 ロジェストヴェンスキー盤は、そもそも音色の方向性がマゼール盤を含めた他の演奏とは正反対であり、今後この方向の演奏が出てくるとはとても思えないからです。

 この演奏は、マゼールがクリーブランド管の指揮者に就任してツマラなくなったとよく言われる1970年代の演奏ですが、この演奏を聴く限りは、スタジオ録音でも魅力的な演奏が十分出来たことが伺えます。(2001/5/11)


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