指揮 | クルト・マズア |
演奏 | ニューヨーク・フィルハーモニック |
録音 | 1993年10月 |
発売 | TELDEC |
CD番号 | 4509-93332-2 |
ハーモニーに独特の響きを持った演奏です。 ハーモニーの響きというと、良ければ『分厚い響き』とか『低音に重心があるどっしりとした響き』とか『透明なハーモニー』という表現で、悪ければ『薄っぺらい響き』とか『不安定な響き』とか『濁った響き』という表現をよく見かけます。 この演奏は、『透明なハーモニー』と言えなくも無いのですが、それよりも『薄い響き』という表現の方がしっくりきます。 さらに『低音に重心があるどっしりとした響き』でもありません。むしろ『軽い響き』と言って良いぐらいです。 ブルックナーなのに『薄くて軽い響き』 ブルックナーのイメージとはまるで正反対で、およそブルックナーには似つかわしくないような響きです。 しかし、わたしはこの演奏の響きに対して非常に魅力を感じました。 その理由の一つがバランスの良さです。 確かに低音に重心が置かれたピラミッド型のどっしりとした響きではありません。一つ一つの音も響き(倍音)が少なく細い音です。 ところが、ハーモニーがピッタリと合っている上に、低音から高音までの音量のバランスが絶妙であるため、音の細さが逆にハーモニーの透明さを高めているのです。 薄くて透明な響きのため、人間臭さが無くなり、却って荘重に聞こえます。 特に、少ない楽器が長く伸ばしている音の上に、少しづつ音が加わって行き、次第に和音が厚くなって行く部分のバランスの扱いは抜群で、どんどん荘厳さが増していき、最後は何か神聖なもののように思えてくるほどです。 しかも、細い音とはいえしっかりとした芯はあり、さらに金管は音が輝いているため、まるでフェンシングの剣で突かれたかのように、突き刺さるような迫力があります。 ただ、この演奏は響きを重視しているのか、ここぞという部分でもあまりアタックを付けていません。 そのため、ガツンと来るもの無く、聴いている人によっては物足りなく感じるかもしれません。 この演奏には、もう一つ魅力があります。 それは、メロディーがよく歌われていることです。 ダイナミクスをフォルテからピアノまで広く取ることで、表現の幅も大きく拡がっています。 中でも、チェロなどの低弦でゆったりと歌うメロディーが最も情感に溢れ、強く心に残ります。 特に第2楽章では、テンポも多少揺らしていて、メンゲルベルクのようにフレーズの最後でテンポを緩めたりしています。(さすがにメンゲルベルクほど大げさではありませんが(笑)) このテンポの揺れによって、メロディーが強調され、さらに『ゆとり』すら感じられます。 この演奏は、バランスが綿密な計算のもとに揃えてあるため、全体的には高層ビルのような人工的な匂いの強い演奏です。 しかし冷たくは無く、むしろ暖かく優しい印象を強く受けます。(2002/2/8) |